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事業承継、ソコが聞きたい!第26回 専門家の活用

 

事業を次の世代に承継しようとするときには、多くの問題が生じます。今回からは事業承継時の専門家の活用について解説します。

事業承継時の専門家の活用

事業承継で発生する問題は、単に相続税がいくらになるか、ということだけではありません。
相続税の前に、相続する会社の価格を評価しなければなりませんし、株式会社では代表取締役の変更など、法律上の手続きも必要になります。許認可等の要件によっては、名義の変更などが必要になるかもしれません。知的資産の承継についてもいろいろな問題が生じるかもしれません。
こういった多くの問題を経営陣だけで対応するのはとても難しいため、専門家の活用で問題解決を図る方法があります。

事業承継の相談先

中小企業の経営者の身近な相談相手は、加入している商工会や商工会議所、同業種組合、税理士といったところでしょう。
その他にも中小企業の相談相手としては、国の支援機関であるよろず支援拠点や事業引き継ぎ支援センター、専門の士業である中小企業診断士や弁護士、公認会計士などがあります。これらの相談相手にはそれぞれ特徴があり、得手不得手もありますから、状況に応じて相談相手を選びましょう。

事業承継時に相談する主な士業の専門家

事業承継の際に関係する士業の専門家には主に以下があります。

税理士

税理士は読者の皆さんがご存知のように、税務の専門家です。
顧問契約を通じて、中小企業の経営者と日常的にかかわることが多いです。毎月の会計報告の際などで後継者とも面識がある場合が多く、経営に深く関与しています。
子どもに株式会社を譲渡する際には、税法上の株式評価額の計算などにも詳しく、将来の相続税も含めてできるだけ税金を少なくする方法の相談などもできます。

税理士にもそれぞれ得意な分野があり、たとえば飲食店の税務に強く顧問先にたくさんの飲食店を持っている税理士や、顧問先に製造業が多い税理士、顧問先に医療関係が多い税理士などがいます。
これらの得意分野を持っている税理士の場合は、守秘義務に抵触しない範囲で、類似業種の事業承継で生じやすい問題とその解決方法についての話も聞けるかもしれません。

その反面、経営に関して数字に表れない部分には弱く、今後の販売戦略や新製品開発など、経営方針に関する部分に関しては、十分なアドバイスは難しいです。
企業の評価価格に関しても、相続税の計算に使用する税法上の価格の計算には詳しいのですが、企業の将来性などを加味した価格の評価は不得手な場合が多いです。

弁護士

弁護士は法律の専門家です。事業承継時に発生する法律問題についての相談ができます。
特に、株主の関係が複雑である場合や、M&Aを活用する場合の契約など、法律全般に関するアドバイスが得られます。

歴史の長い企業の場合、株主に複雑な相続が発生していて、ほとんど知らないような人が株主になっているような場合もあります。
特に平成2年以前は、株式会社の設立時に7名以上の株主が必要だったため、家族だけでなく親戚や知人にも名目上の株主になってもらうことがありました。このような名目株主に相続が発生すると、一度も会ったことのない遠くの親戚や祖父の知り合いの孫、というような縁もゆかりもない人が株主になっていたりします。
このように分散してしまった株式の買い取り交渉を弁護士に依頼することで、経営権の円滑な集中を図ることができます。

また、弁護士は民事再生法などの経営再建のための法的な手続きも行います。たとえば、会社を次の世代に承継させるにあたって、経営状況が芳しくない会社の承継と同時に再建に必要な法的手続きをとる、ということについても依頼ができます。

公認会計士

株式会社は株主のもので、代表取締役などの経営者は株主から会社の経営を委任されている、というのが株式会社のしくみです。つまり、経営者は株主に雇われて会社経営をしている人材、というのが建前です。
株主に雇われているわけですから、株主から預かった資金を適正に使っていることを株主総会で報告するだけでなく、金の使い方が適正であることを第三者に点検してもらう必要があります。このお金の点検を行うのが公認会計士です。
公認会計士は監査と会計の専門家であり、財務書類の監査証明業務のほかに、財務関連の相談に応じます。

公認会計士は、事業承継では経営状況の課題の把握や経営改善のアドバイス、非上場株式の評価、M&Aでの売却価格の試算などのアドバイスを行います。経営者の個人保証の解除や中小企業会計要領などの適正な会計の導入支援などの、将来を見据えたアドバイスができます。
しかし、基本的に法律にのっとった会計監査や会計支援が業務の中心なので、企業の販売戦略や新製品開発、新規事業展開、人材配置といった、会計や法的な規定とは関係のない分野については不得手なことも多いです。

中小企業診断士

中小企業診断士は経営コンサルタントの国家資格保有者で、経営全般の広い知識を持つ会社経営の専門家です。経営戦略の立案やマーケティングの支援、生産管理や流通業の運営管理、人事戦略など、幅広い分野の支援を行います。
事業承継においては、単に事業を承継するだけでなく、事前の経営状況の診断や、承継に前後して経営改善の実施による事業継承後の業績向上、承継後の経営状況のフォローアップなど、広い範囲のサポートが期待できます。

中小企業の経営者は、しばしば事業のお金と家計のお金とが混在していて、経営の実態がわからないことがあります。一見すると、うまく回っているように見えて、実は社長からの借入金でなんとか会社が回っている。つまり、会社の赤字分を社長が自分のお金を出して補てんして、経営の実態は赤字だらけで倒産寸前、などというようなこともあります。

このような経営状況を分析して原因を洗い出し、事業承継と同時に経営も立て直す、ということも中小企業診断士がサポートできる分野です。
また中小企業診断士は、経営に関する全般的な広い知識があるので、事業承継のような複雑な案件では、しばしば複数の専門家を取りまとめるコーディネーターとしての役割も果たします。

相談できる主な団体や機関

金融機関

金融機関も事業承継の際に相談ができます。取引先金融機関は中小企業と日常的に接しており、個々の企業の経営状況を把握しています。

また、事業承継と同時に経営の立て直しを図ろうとするような場合、設備投資などの資金が必要になる場合がしばしばあります。このようなときに頼りになるのが取引先金融機関です。
以前は銀行などから融資を受ける場合、土地などの担保を要求されました。その理由は、金融庁が銀行を監査する際に、担保や経営者の個人保証のない融資を不良債権とみなしたことが原因でした。
しかし、金融庁が方針を変えて、担保や個人保証ではなく、その企業の収益性や将来性などのいわゆる事業性評価による貸し付けを増やすようになりました。これにより、事業承継に伴って必要となる資金が借りやすくなってきています。

さらにまた、銀行に対してコンサル機能が期待されるようになり、銀行も経営者向けの各種のセミナーを主催したり、銀行員向けに行員のコンサル能力を向上させるための勉強会を開いたりしています。
最近は、M&Aのマッチングを銀行や信用金庫などが行うことも増えてきています。
このように、銀行の担当者も事業承継の相談相手になります。

商工会・商工会議所

経営指導員の巡回指導により中小企業の経営に関与しているのが商工会や商工会議所です。国の法律によって作られた、国の政策を実行するための機関です。
わが国では現在、企業の数が年々減少しています。これはわが国の求人数の減少に直結します。そこで、企業の廃業による求人数の減少を防ぐために、国は事業承継のためのいろいろな施策を作って、商工会議所や商工会を通じてそれらの施策を実行しようとしています。

商工会や商工会議所は、事業引継ぎ支援センターや中小企業診断士などとも連携しています。商工会議所や商工会に経営の相談に行くと、そこからその企業の業種に詳しい中小企業診断士を紹介されることもあります。

同業種組合

「事業を引き継ぎたいのだけれども何から手をつけたらよいかわからない」というときに意外と役に立つのが同業種組合です。
ほとんどの経営者にとって、事業承継は一生に一度か多くても2度(自分が先代から受け継いだときと、次代へ引き継ぐとき)しかなく、過去に経験のないことを行わなければならないのです。
しかし同業種組合の役員の中には、すでに事業承継の経験のある人や、承継のサポートを行ったことがある人もいます。その人が直接承継のサポートができなくても、どんな専門家に頼めば円滑にサポートが得られるか、といった知識を持っていたりします。
どこから手をつけたらよいかわからない、という場合に、とりあえず相談してみるというのも選択肢のひとつです。

その他の公的機関

事業引継ぎ支援センター

事業引継ぎ支援センターは、後継者のいない企業に、M&Aのためのマッチング支援を行っている公的な機関です。

事業としてM&Aのマッチングを行う仲介企業が最近増えてきましたが、その多くはコンサル会社や弁護士法人、税理士法人などを母体とする営利企業です。
営利企業が行うマッチングビジネスでは、売却したいA社を買収したいB社に紹介することで利益を得なければなりません。A社とB社から利益を得るためには、両社がそれなりの大きさの企業でないと利益の出る仲介料を払えません。
したがって、仲介会社によるマッチングビジネスの対象企業は、ある規模以上の会社になります。小規模の企業は仲介会社では利用しにくいことが多いです。

しかし、事業引継ぎ支援センターは公的な機関なので、営利企業のマッチングビジネスでは取り扱ってもらえないような小規模の会社もマッチングの対象になります。

中小企業再生支援協議会

財務に問題があっても収益性があり、事業再生に意欲のある中小企業の支援のために開始されたのが中小企業再生支援協議会です。事業承継に際して、会社の建て直しが必要な企業の支援も行います。

よろず支援拠点

よろず支援拠点は、国が全国に設置した経営相談所で、中小企業や小規模企業などの、売り上げの拡大や経営改善など、経営上のあらゆる悩み事の相談を受け付けている窓口です。
多くの専門家や公的機関と連携して、経営者の悩み事にワンストップで答えるような体制を作っています。

【事例】

X社は湯河原の温泉旅館である。大女将Aは、70歳になったため、引退を考えるようになった。
これまで旅館の経営は大女将が取り仕切っていたため、45歳になる長男の嫁はこれまで旅館経営に携わったことがなかった。そこで大女将は23歳の孫Bに女将を譲ろうと考えた。

若女将候補となった孫は、経営の知識を得るため商工会議所が主催する第二創業塾を受講した。第二創業塾では、座学の学習のほかに事業計画を作成する実習があり、その実習で孫は中小企業診断士Yと知り合い、自身が思い描いていた温泉旅館経営をさらに具体的な事業計画にブラッシュアップすることができた。

大女将Aは中小企業診断士Yの助けを得て経営改革に乗り出した。
仲居の中には孫Bよりも年長で経験豊富な者が多かったが、Y氏の助言を参考に人間関係を構築した。
また、温泉旅館も露天風呂つきの部屋を作るなどの改築を行い、大幅な売り上げ増と利益増により、従業員の信頼を勝ち得て若女将に就任した。

 

プロフィール

一般社団法人 多摩経営工房(多摩ラボ)

中小企業診断士、社会保険労務士、税理士、ITコーディネータ等の資格を持つプロのコンサルタント集団で構成されている。
さまざまな分野や業種での実務経験が豊富な専門家が、日本経済を支える中小企業の役に立ちたいという強い意思と情熱を持ち、また日本の中小企業が持つ優れた技術やサービスを広く海外に展開し、国際社会にも寄与すべく以下の活動を行っている。

  • 多摩地域の企業の経営課題解決のため、地元密着でサポート
  • 企業と行政・金融機関などを繋ぐパイプ役として、また専門的知識を活用した中小企業施策の活用支援など、幅広い活動を通して企業発展を支援

多摩経営工房(多摩ラボ)ホームページ
http://tama-labo.jp/

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プロフィールページ:落合和雄(落合和雄税理士事務所)

 

 

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