相続登記とは
不動産の名義変更のことを「相続登記」といいます。
実家の土地建物やマンションなどの不動産を相続したら、できるだけ早めに相続登記しましょう。
手続きをしないで放置すると、いろいろなデメリットがあります。以下で相続登記しなければならない理由や注意点をみていきましょう。
目次
1.相続登記をしなければいけない理由
そもそもなぜ相続登記をしなければならないのでしょうか?
1-1.相続登記は法律上の義務ではない
2021年1月の時点において、相続登記は法律上の義務ではありません。
不動産を相続して登記せずに放置していても、罰則は適用されません。
また相続登記には期限もないので、いつでも登記申請できます。相続開始後20年、50年後であっても登記を受け付けてもらえる状況です。
ただ相続登記をしないと以下のようなたくさんのデメリットやリスクが発生します。
1-2.相続登記せず放置するデメリット
不動産が誰のものかわからなくなる
不動産の名義変更をしないと、登記名義が亡くなった被相続人のままになってしまいます。
それでは不動産が誰のものか不明であり、相続人としても「自分の不動産である」と主張しにくくなるでしょう。
また不動産が相続登記されずに放置され続けると何代にもわたって相続が発生し、持分がどんどん細分化されます。所有者不明となって誰も固定資産税を払わなくなるケースが多々ありますが、そういった場合には自治体も誰に課税すべきか判断できません。結果的に税金が支払われず、社会問題になっています。
このように「不動産が誰のものかわからなくなる」と、個人にとっても社会全体にとっても損失となります。
売却や活用ができない
不動産の相続登記をしないと、売却や抵当権設定などの活用ができません。
たとえば好景気が訪れて不動産を高値で購入してくれる人が見つかったとしても、きちんと登記していなかったらすぐに売却できません。
登記手続をしているうちに、別の物件を買われてしまう可能性もあります。つまり、相続登記をしていなかったらばかりに売却や活用の時機を逸してしまうリスクが高まります。
勝手に共有名義で登記される
遺産分割協議によって不動産の相続人を定めても、相続登記をせずに放置していたら他の相続人が勝手に共有登記してしまう可能性があります。
そうなったら、他の相続人が自分の表見的な持分(みかけの持分)を共有持分買取業者などに売却してしまうかもしれません。
そうなったら、売却された持分の取り戻しが困難となる可能性もあります。きちんと相続登記していなかったばかりに大きなトラブルに巻き込まれるリスクがあると考えましょう。
無権利者に売られてしまう
不動産の名義人が亡くなった被相続人のままになっていると、まったく無関係な第三者が「私が相続人です」などと説明して第三者へ売却してしまう可能性もあります。
いわゆる「不動産詐欺」に利用されるリスクが発生するのです。
そうなったら、真正な所有者としても刑事事件に巻き込まれてしまうでしょう。場合によっては被害者から責任追及されるリスクも懸念されます。
トラブル防止のためにも、早期に相続登記しましょう。
第三者に権利を奪われる
最近、相続登記を促進するための法改正が行われました。
これまでの法律では「相続登記をしなくても相続人は第三者へ不動産の所有権を対抗できる」とされていました。
ところが改正により、「相続して取得した物件であっても相続登記しなければ第三者へ対抗できない」と変更されたのです。
現在の法律では、相続人が相続登記せずに放置していると、先に登記をそなえた第三者へ権利主張できず、土地や建物を奪われてしまうリスクがあります。
自分の不動産を守りたければ、早期に相続登記すべきといえるでしょう。
後の世代が相続登記するときに困難が生じる
相続登記をしないで放置していると、後の世代にも迷惑をかけてしまいます。
自分が相続登記しないまま死亡したら、子どもなどの次の世代が不動産を相続します。
すると子ども達は、祖父母の代の相続登記と親の代の相続登記の両方をしなければなりません。そのためには親の代の遺産分割協議書などの書類も必要となり、非常に手続きが複雑になります。
子ども達も面倒なので相続登記せずに放置すると、孫の代になってさらに手続きが複雑になってしまうでしょう。
このように、相続登記を自分の代できちんと済ませておかないと、子どもや孫などの後の世代に多大な負担が及ぶので、早期に登記を済ませる必要があります。
1-3.価値のない不動産の相続登記をしなければいけない理由
確かに資産価値のある不動産であれば、誰かに奪われてしまったら損失が発生するのできちんと相続登記したいと思うでしょう。
しかし価値のない原野や山林などの不動産の場合、あえて相続登記したくないと考える方もいるかもしれません。
価値の低い不動産であっても、やはり相続登記すべき理由があります。
詐欺に利用されるリスク
不動産の相続登記をせずに放置していると、先に述べたように不動産詐欺に利用されるリスクがあります。たとえば自分が所有している山林が原野商法などの詐欺や悪質商法に利用されたら、被害者からも恨まれたりトラブルに巻き込まれたりするでしょう。
相続登記しておけば、余計なトラブルを避けられます。
価値が生じる可能性
今は価値がないとしても、将来は価値が高くなる可能性があります。
たとえば田舎の土地であっても周辺地域が開発されて宅地化され、土地値が急上昇することもあるでしょう。
自分で農業をしない方であっても、農地を貸し出して収益を得られる可能性があります。
そのような場合に備えて早めに相続登記しておきましょう。
放置される不動産は社会問題
最近では、相続登記されずに放置される不動産が増えて社会問題になっています。
誰も固定資産税を支払わない土地、誰も管理しない建物が老朽化して倒壊しそうになり、周辺地域に危険を及ぼしているケースなどが典型です。
国や自治体も所有者不明の土地を減らす努力をしています。「空き家対策基本法」なども作られて、倒壊の危険のある特定空き家には税負担の増加や強制撤去などのペナルティが課される可能性もあります。
相続登記の義務化の可能性
現在、相続登記は法律上の義務ではありません。
しかし放置される不動産を減らすため、義務化が積極的に検討されています。将来の近い時期に相続登記が義務化される可能性が高いといえるでしょう。
以上のような実質的な不利益や社会情勢、国の政策状況からしても、今のうちからきちんと相続登記しておくのがベストです。
最近の法改正により、2024 年には相続登記が義務化される運びとなりました。
こちらの記事も参照ください。
相続登記を義務化する改正法が成立、2024年4月までに施行されます!
2.相続登記は自分でできる?
不動産の相続登記は、司法書士に依頼せずに自分でできないのでしょうか?
結論的に、確かに自分でもできますし自分でしている方もおられます。
ただ自分でするのは非常に面倒ですし、間違える可能性もあるのでお勧めではありません。
特に以下のような場合には、素人では対応が困難になりがちです。
2代以上の相続が発生している
親の代が相続登記をせずに祖父母名義のまま放置していると、子どもの代が祖父母の分と親の分をまとめて相続登記しなければなりません。
この場合、必要書類も膨大となり非常に手間がかかります。司法書士に依頼するのが賢明でしょう。
相続人が高齢で素早く動きにくい
相続人が高齢で手伝ってくれる子どももおらず自分で動くのが困難な場合には、司法書士へ依頼するのが得策です。
甥や姪が相続
甥や姪が相続する場合には膨大な量の戸籍謄本類が必要です。自分たちだけで対応するのは困難なので、司法書士へ依頼しましょう。
法務局が遠い
相続登記は、不動産が存在する場所の法務局でしなければなりません。
法務局が遠方なケースでは、申請や訂正のためにいちいち窓口に行かねばならず手続きが非常に面倒になる可能性があります。
できれば司法書士に依頼する方がよいでしょう。
上記以外のケースでも、自分で相続登記の手続きをするのに困難を感じたら、できるだけ早めに司法書士へ相談するようお勧めします。
3.共有名義にする問題点
相続登記するとき「共有名義」にする方法があります。
遺産分割協議をしなかったり、協議しても合意できなかったりしてとりあえず法定相続分に従った共有登記をするパターンです。
しかし不動産を共有にしていると、不動産の売却や活用が困難となるのでお勧めではありません。売却や抵当権設定、長期の賃貸借やリフォームなどの際、共有者の合意が必要になるからです。共有者同士の意見が合わないと、結局は不動産を放置するしかなくなります。
それでも毎年固定資産税はかかるので、不動産を所有していても損にしかなりません。
また共有者のうち誰かが死亡したら、さらに相続が発生して共有持分が細分化されます。最終的には「誰が共有者なのかがお互いにまったくわからない状態」になりかねません。
共有にするとさまざまなリスクが発生するので、遺産分割協議の際には誰か1人の単独所有と定めるようお勧めします。