自分で相続財産調査(故人が遺した遺産の全容を調べて把握する調査)をする方法をパターン別に解説!
相続人の立場になったら、相続財産調査(遺産の調査)をしなければなりません。
遺産内容がわからなければ、相続人同士で遺産分割協議も開始できませんし、不動産の名義変更や預貯金払い戻しなども受けられないままになってしまいます。
ただ多くの方によって遺産相続は初めての経験であり、「自分だけで遺産調査をしなければならない」といわれても戸惑ってしまうでしょう。
この記事ではそのような方のため、自分で相続財産調査する方法を遺産の種類ごとに解説します。
相続人の立場になって遺産内容を把握したい方はぜひ参考にしてみてください。
目次
1.相続財産調査とは
相続財産調査とは、被相続人(亡くなった方)の遺産内容としてどのようなものがどの程度あるのか調べることです。「遺産調査」ともいいます。
相続財産には預貯金や不動産などの資産だけではなく借金や未払い家賃などの負債も含まれます。
相続財産調査が終わらないと遺産の範囲を確定できないので、遺産分割協議も始められません。相続人の立場になったら、早めに相続財産調査する必要があるといえるでしょう。
相続財産調査しなければならない理由
相続財産調査をしなければならない理由は以下のとおりです。
遺産分割協議を始めるため
1つには、遺産分割協議を始めるためです。
相続人が確定しても、どのような遺産があるのかわからない状態では遺産分割協議を開始できません。相続財産に漏れがあると、遺産分割協議後にあらたな遺産が発見されて、再度の話し合いが必要となってしまう可能性もあります。
遺産分割協議を始める前提として、綿密な相続財産調査が必要といえるでしょう。
不動産などの資産の名義変更をするため
遺産の中に不動産が含まれていたら、相続人名義に変更しなければなりません。
2024年4月からは相続人による不動産の相続登記が義務化されます。
相続登記しないで放置しておくと「過料」という金銭的な制裁を加えられる可能性もあるので、適切に対応しましょう。
ただどのような不動産があるのかわからないと、名義変更のしようもありません。
不動産の名義変更をするためには相続財産調査が必要です。
また車や株式などの資産がある場合にも名義変更の手続きをしなければなりません。これらの前提としても、やはり車や株式などについての資産調査が必要となります。
預金の払い戻しを受けるため
預金が遺された場合には、相続人は預金の払い戻しを受けられます。
ただし全額の払い戻しを受けるには、遺産分割を終わらせなければなりません。
(なお一部であれば預金の仮払い制度によって払い戻しを受けられます)
預金の払い戻しを受けるためにも、早めに相続財産調査を終わらせるべきといえるでしょう。
借金などの負債を把握して相続放棄するか検討するため
被相続人が借金や未払い金などの負債を遺して死亡すると、相続人が引き継がねばなりません。相続人が借金などの負債を相続したくなければ、相続放棄や限定承認を検討する必要があります。
ただし相続放棄や限定承認には「自分のために相続があったことを知ってから3か月」の期限が適用されます。
借金などの負債を把握して相続放棄するかどうかの態度を決めるためにも、早急に相続財産調査する必要があるといえるでしょう。
相続税の申告や納付をするため
遺産の評価額が相続税の基礎控除額を超える場合、基本的に相続税を申告・納付しなければなりません。
相続税の申告納付期限は、「相続があったことを知ってから10か月以内」です。
その期間内に相続財産を把握できていないと、相続税申告が必要となるかどうかもわかりませんし、相続税の計算もできないでしょう。
適切に相続税の申告や納付をするためにも、早急に相続財産調査を行う必要があるといえます。
2.相続財産調査で調べなければならない財産
相続財産調査では、具体的にどのような財産があるか調べなければならないのでしょうか?以下で代表的な財産内容を示します。
- 現金、預貯金
- 不動産
- 車
- 株式
- 投資信託
- 債券
- 貸金などの金銭債権一般
- 借地権や借家権
- 著作権などの知的財産権
- 受取人を被相続人本人に指定した生命保険
- ゴルフ会員権
- 貴金属や時計、絵画、骨董品などのその他動産類
- 負債(借金や未払い税、未払い家賃や未払い光熱費など)
上記以外に、以下のようなものについても合わせて調査しておくようおすすめします。以下は厳密には相続財産ではありませんが、相続の際に請求が必要となるなど、把握しておく必要性が高いためです。
- 被相続人以外の人が受取人に指定された生命保険金や損害保険金
- 死亡退職金
- 未支給年金
相続人が把握しにくい財産
相続財産調査の際、相続人が把握しにくいタイプの財産があります。
たとえば他人に貸しているお金や他人からお金を借りている場合の負債なども相続財産調査で明らかにしなければなりません。
最近ではネット銀行やネット証券で取引する人も増えています。通帳や証書が発行されないので、自宅を調べても存在が明らかにならない可能性が比較的高いといえるでしょう。
また銀行口座の数が多い被相続人の場合にも調査の負担が重くなりやすい傾向があります。たとえば1つの金融機関の複数の支店で口座を持っている人もいます。銀行口座がある場合には、漏れのないように慎重に調査しましょう。
3.借金などの負債について
遺産に借金などの負債が含まれていたら、基本的に相続人へと相続されます。
負債が相続される場合には、法定相続分に応じた負担割合となります。
たとえば借金が600万円あって相続人が子ども3人の場合、子ども1人あたり200万円ずつの負債を相続します。債権者が200万円ずつの返済を求めてきたら、相続人である子どもは支払いを拒否できません。
ただし相続放棄すると、相続人は「はじめから相続人ではなかった」ことになるので、負債の支払いをする必要はなくなります。
借金を相続したくない場合には相続放棄を検討すると良いでしょう。
相続放棄の期限
相続放棄には期限があるので注意が必要です。具体的には「自分のために相続があったことを知ってから3か月以内」に、家庭裁判所で相続放棄の申述をしなければなりません。
この期間を「熟慮期間」といいます。一般的には「相続開始(被相続人の死亡)を知ってから3か月」を熟慮期限とされるケースが多数です。
相続財産の調査や相続放棄するかどうかの判断に時間がかかりそうな場合、家庭裁判所へ申請すると相続放棄の申述期間を延長してもらえる可能性があります。
ただし熟慮期間伸長の申立ては熟慮期間内に行わねばなりません。いずれにせよ早めの対応が必須となるでしょう。
4.財産の種類別!自分で相続財産調査する方法
以下では財産の種類別に相続人が自分で財産調査する方法をお伝えします。
4-1.預貯金
預貯金の場合、まずは被相続人の所持品の中に通帳やキャッシュカードなどがないか確認してみてください。自宅の棚やたんす、引き出しの中に通帳や証書類がしまわれているケースもよくあります。
また取引している金融機関から郵便物が届く場合もあります。
必ず郵便受けをチェックして、銀行などからの通知書を確認しましょう。
さらに最近ではインターネット口座に預金を入れている人が増えています。その場合、被相続人のスマホやパソコンにログインして内容を調べるか、ネット銀行へ情報照会する必要があります。
残高証明書、取引明細書の開示を請求する
預貯金を調べる際には、相続発生時の残高を知る必要があります。そのためには残高証明書や取引明細書の取得をすると良いでしょう。どこの金融機関と取引しているかがわかれば、対象の金融機関へ残高証明書や取引明細書を請求できます。
残高証明書とはある時点における預金残高を証明する資料、取引明細書はある一定期間の取引内容がわかる資料です。
相続人の戸籍謄本や被相続人の除籍謄本などの資料を用意して、該当する金融機関へ請求しましょう。
4-2.不動産
不動産を調査する際には、自宅内に保管されている以下のような書類を探してみるとよいでしょう。
- 権利証や登記識別情報通知書
- 固定資産税納税通知書・課税明細書
- 不動産売買契約書
- 銀行通帳からの固定資産税の引き落とし明細
不動産を調べる際には「名寄帳」が役立ちます。名寄帳とは、役所がエリア内の不動産の固定資産課税関係を把握するための資料です。
名寄帳にはその市区町村内のすべての不動産について、所有者などの情報が記載されています。正式な名称は「固定資産課税台帳」といいます。
名寄帳を見ると、被相続人がその自治体でどのような不動産を持っているのか一覧で把握できます。開示を受けたい場合には、市町村や税事務所へ請求しましょう。
なお不動産は固定資産税がかかっていない場合や未登記の場合でも相続財産になります。そういったものについては現状も含め、1つ1つ調べていきましょう。
不動産を賃借、賃貸している場合
被相続人が賃貸物件を借りている場合には、賃借権が相続の対象になります。被相続人が物件を貸している場合には賃貸人の権利も相続されます。
賃借権や賃貸人の地位を相続したら、まずはどのような契約内容になっているのか、把握しましょう。たとえば以下のような資料を確認する必要があります。
- 借地や借家に関する契約書
詳細が不明な場合、土地や建物の使用者(賃借人)や所有者(賃貸人)などの契約の相手方へ直接問い合わせてみてもかまいません。
賃借している場合には、契約を解除することも可能です。被相続人が居住していた家などを引き継ぐ必要がなければ、早めに相続人間で話し合って解除すると良いでしょう。なお普通賃貸借契約の場合、賃貸人の側から簡単には契約解除ができないので、賃貸人としての地位は基本的に引き継ぐことになります。
4-3.上場株式や投資信託、債券などの証券口座
株式や投資信託、債券などの有価証券は通常、証券会社や信託銀行などに預けられています。
被相続人がこれらの機関と取引していないか、調査しましょう。
証券口座があれば、年に1回年間の取引報告書が届きますし、上場株式を保有していれば株主総会や配当金についての連絡も届きます。
株式を預けている証券会社がまったくわからない場合、証券保管振替機構に情報照会すると、保有する株式を調べられるので試してみてください。
4-4.借金などの負債
借金や未払い家賃などの負債も相続財産調査の対象です。
自宅に以下のようなものがないか、確認しましょう。
- 借用書
- 振込証
- 毎月ローンやクレジットが引き落とされている銀行口座
- 督促状、催促状
また税金や健康保険料等の未納分も相続されるので、合わせて確認しなければなりません。
ローンやクレジットの借入先がわからない場合、信用情報機関に情報照会すると調べられる可能性があります。
信用情報機関には以下の3種類があります。
- JICC
- CIC
- KSC(全国銀行個人信用情報センター)
相続人の立場からでも情報照会できるので、借金を調べるときには利用してみてください。
5.専門家に相続財産調査を任せるメリット
相続人が自分で相続財産調査を行うのは大変です。弁護士や司法書士などの専門家に相続財産調査を依頼すると、以下のようなメリットがあります。
5-1.正確に相続財産を調べられる
自分で調べるよりも専門家が調べた方が、漏れなく正確に財産調査できるでしょう。
正確に遺産を把握するためには専門家に依頼するようおすすめします。
5-2.職権による調査方法を利用できる
弁護士は弁護士法23条照会という職権にもとづく調査方法を利用できます。
たとえば相続人の代理人として預金口座などの内容を調べられます。
取引内容が不明な預金口座や証券口座がある場合、弁護士にまとめて財産調査を依頼すると良いでしょう。
5-3.手間がかからない
相続財産調査は非常に手間のかかる作業です。弁護士や司法書士などの専門家に任せてしまえば、相続人が自分で対応しなくて良いので手間がかかりません。
5-4.遺産分割協議や相続登記の支援もしてもらえる
相続財産調査が終わったら、遺産分割協議を進めなればなりません。遺産の中に不動産があれば早めに相続登記もしなければならないでしょう。
弁護士や司法書士などの専門家に相続財産調査を依頼すると、引き続いて遺産分割協議や相続登記に関する支援もしてもらえるメリットがあります。
まとめ
遺産相続の際、相続財産調査で手間取ってしまう相続人の方が少なくありません。そんなときには弁護士や司法書士などの専門家への依頼を検討しましょう。相続人の立場になったら、まずは遺産相続案件に力を入れている専門家へ相談してみるようおすすめします。