【不動産を相続放棄する手続き】と相続人の土地所有権放棄が可能となる相続土地国庫帰属法
「相続した土地を持て余している。」
「管理も売却も難しく、負担ばかりが増えていく。」
故人の遺した不動産が思いがけず負担になることは少なくありません。そんなときの選択肢のひとつが相続放棄です。
ただし、相続放棄には期限(3か月以内)があります。これを過ぎると相続した不動産の管理義務が発生し、簡単に手放すことができなくなります。
しかし、2023年に施行された「相続土地国庫帰属制度」を利用すれば、一定の条件を満たすことで国に土地を引き取ってもらえる可能性があります。
この記事では、相続放棄の手続きと、相続土地国庫帰属制度の活用方法について解説します。
不要な不動産をどうすべきか悩んでいる方は、ぜひ参考にしてください。
目次
相続放棄の原則 ※土地だけを相続放棄できない
相続放棄をすると、すべての財産や負債を放棄することになります。そのため、特定の財産だけを選んで放棄することはできません。
たとえば、「現金は相続するが、土地は放棄する」といった選択は認められていません。相続するならすべての財産を受け継ぐことになり、放棄するなら一切相続しないという決まりです。
また、一度認められた相続放棄は取り消すことができません。後で後悔しないように、事前に財産を調査し、慎重に判断することが重要です。
相続財産に実家や農地・山林など多種の不動産が含まれている場合は見極めが必要
相続財産に不動産が含まれている場合、その価値や管理負担をよく見極めることが重要です。
不動産には、都市部のマンションや一戸建てだけでなく、実家・農地・山林・空き家・商業施設・賃貸物件など、さまざまな種類があります。相続したからといって、すべてが資産になるとは限りません。
相続した不動産が負担になる可能性も
不動産を所有すると、固定資産税や維持管理費がかかります。たとえば、相続した家が老朽化している場合、修繕費がかかるうえ、使わないまま放置すると管理責任が問われることもあります。
また、賃貸物件を相続すれば家賃収入が得られる一方で、入居者対応や修繕費の負担が発生することも考えられます。
さらに、不動産の種類によっては、売却が難しいケースもあります。都市部の住宅地は比較的売れやすいですが、農地・山林・空き家などは買い手がつかず、長期間負担を抱える可能性があります。
不動産の相続時に考えるべきポイント
不動産を相続するかどうか迷ったら、次の点をチェックしましょう。
- 固定資産税や維持管理費を負担できるか
- 自分や家族にとって活用できるか(居住・賃貸・売却など)
- 管理が難しい場合、スムーズに売却できるか
- 不要な場合、相続放棄という選択肢はないか
特に、農地・山林・空き家などの不動産を相続する場合は要注意です。維持管理が大変なうえ、売却先がすぐに見つからないケースも少なくありません。早めに弁護士や税理士に相談し、最適な方法を検討しましょう。
不動産を相続放棄するメリット
不動産を相続すると、税金や管理の負担が発生します。しかし、相続放棄をすればこれらの負担を回避できるというメリットがあります。具体的にどのような利点があるのか、詳しく見ていきましょう。
相続税がかからない
相続税は、基礎控除(3,600万円+法定相続人1人あたり600万円)を超える財産に課税されます。しかし、相続を放棄すれば、そもそも相続税の支払い義務がなくなります。高額な不動産を相続する場合は、放棄することで税負担を避けることが可能です。
名義変更の手間と費用が不要
不動産を相続すると、名義変更のための相続登記が必要になります。
登記には登録免許税がかかり、さらに司法書士に依頼すると5〜10万円ほどの報酬も発生します。相続放棄をすれば、これらの手続きや費用を一切負担しなくて済みます。
固定資産税を支払わなくて済む
不動産を所有すると、毎年固定資産税がかかります。
たとえば、土地なら「課税標準額×1.4%」の税率で計算されます。特に、活用予定のない不動産を相続すると、使い道がないのに税金だけ支払うことになりかねません。相続放棄をすれば、このような負担を回避できます。
相続トラブルを避けられる
相続財産に不動産が含まれると、遺産分割協議が長引く原因になることがあります。なぜなら、不動産は分割が難しく、誰が相続するかで親族間の争いに発展するケースも少なくないからです。相続放棄をすれば、遺産分割の話し合いに巻き込まれず、トラブルを避けることができます。
相続放棄には多くのメリットがありますが、一度放棄すると後から撤回できません。不動産の価値や今後の活用予定をしっかり検討し、必要であれば専門家(弁護士・税理士・司法書士)に相談するのが安心です。
相続放棄手続きの流れ
相続放棄をするためには、被相続人が亡くなったことを知った日から3か月以内に、家庭裁判所へ申し立てる必要があります。
詳しい手続きについては、以下の記事をご参照ください。
相続の概略 第8回 相続人が相続しない方法~相続放棄とは~
相続放棄した不動産はどうなる
相続人が全員「不動産はいらない」と判断し、相続放棄をすると、その不動産はどうなるのでしょうか?
放棄したからといって、すぐに国や自治体が引き取ってくれるわけではなく、一定の手続きが必要になります。
相続人全員が不動産を放棄した場合の流れ
相続人が不動産を放棄すると、次に相続権がある人へ引き継がれます。しかし、相続する人が誰もおらず、相続人全員が不動産を放棄した場合は、家庭裁判所が「相続財産清算人」を選び、その財産を整理・処分することになります。
相続財産清算人の主な役割は次のとおりです。
- 不動産や預貯金の管理・売却
- 借金や税金の支払い、清算
- 最終的に残った財産を国へ引き渡す
不動産を放棄してもすぐには手放せない
「相続放棄したから、もう関係ない」と思うかもしれませんが、相続財産清算人が決まるまでの間は、相続人全員に管理義務が残ります。
相続財産清算人が選ばれるまでの間、不動産が適切に管理されていないと、近隣住民に迷惑がかかることがあるからです。
たとえば、以下の点で管理が必要です。
- 草刈りやゴミの処分をする(放置すると景観や衛生面で問題になる)
- 倒壊の危険がある建物を管理する(放置すると賠償責任が発生する可能性)
- 空き家や空き地への不法侵入を防ぐ(不審者の住み着きなどのリスクがある)
相続財産清算人が決まるまでは、通常1から2か月程度かかりますが、その間は相続人が責任を持って管理する必要があります。
2023年施行・一定の要件を満たした場合に土地所有権放棄が可能となる相続土地国庫帰属法とは
「相続放棄の期限があるなんて知らなかった…。」
「気づいたときには相続登記が必要になっていた…。」
このように、意図せずに不要な土地を相続してしまったというケースは少なくありません。
土地は持っているだけで固定資産税や管理の手間がかかるため、活用する予定がない場合は早めに対策を考えることが重要です。
もし、相続放棄の期限(3か月以内)を過ぎてしまった場合でも、一定の条件を満たせば国に引き取ってもらえる「相続土地国庫帰属制度」があります。
この制度を利用すれば、不要な土地を手放し、負担をなくすことができるかもしれません。
「相続土地国庫帰属制度」の概要
2023年4月から始まったこの制度では、相続や遺贈で取得した土地について、一定の条件を満たせば国が引き取る仕組みになっています。ただし、どんな土地でも引き取ってもらえるわけではなく、国が定める条件をクリアする必要があります。
制度を利用できる条件
相続土地国庫帰属制度を利用できる条件は、以下のように細かく定められています。
①申請できる人
相続や遺贈で土地を取得した人のみが対象です。
※売買や贈与で取得した土地は対象外。
②引き取ってもらえる土地の条件
国が引き取るのは、管理や処分に過度な負担がかからない土地に限られます。
たとえば、次のような土地は、申請が認められていません。
- 建物が残っている土地(更地であることが条件)
- 借地権や担保権が設定されている土地
- 他人が使用する予定がある土地
- 土壌汚染されている土地
- 隣地との境界が不明確な土地
また、以下に列挙する土地は、申請はできても、審査の段階で承認されない可能性があります。
- 急な崖や管理に負担がかかる土地
- 地上や地下に撤去が必要なものがある土地
- 隣地所有者とトラブルになっている土地
このように、状態の悪い土地や管理が難しい土地は引き取りを拒否されるため、事前に条件を確認することが大切です。
手続きにかかる費用
国に土地を引き取ってもらうには、申請者が以下の費用を負担する必要があります。
- 審査手数料(1筆あたり14,000円)
- 建物の解体費用(建物がある場合は撤去が必要)
- 境界確定の測量費用(隣地との境界が不明確な場合)
- 承認後の「負担金」(10年分の土地管理費相当額を納付)
負担金は土地の条件によって変わりますが、一般的に数万円から20万円程度かかります。
ただし、都市部や管理が難しい土地では、数十万円以上の負担が発生するケースもあるため、事前に確認が必要です。
不要な不動産の負担を軽減するために早めの対策を
不動産の相続は、思わぬ負担を招くことがあります。
特に、管理が難しい土地や使い道のない不動産を引き継ぐと、税金や維持費の負担が続き、トラブルに巻き込まれる可能性もあるため、早めの対策が重要です。
相続放棄の期限(3か月以内)を過ぎてしまった場合でも、相続土地国庫帰属制度を活用すれば、一定の条件を満たすことで国に引き取ってもらえる可能性があります。
ただし、制度の利用には要件があり、手続きも複雑なため、個人で判断せず、弁護士や司法書士などの専門家に相談することをおすすめします。
不要な不動産を相続してしまった場合は、早めに専門家に相談し、最適な解決策を見つけましょう。