【おひとりさま遺産は国庫へ】倍増する国庫納付や遺贈について解説
「未婚で子どももいないが、自分が所有している財産は今後どうすればいいのだろう」
「終活を行おうと思うが、自分の死去後は財産がどうなるのか知りたい」
「遺産は死去後に国庫に納められると聞いた。どうしてそうなるのか」
亡くなられた方(被相続人)に財産や債務がある場合、相続人が相続を行います。しかし、被相続人に相続人がいない場合は、所有していた財産はどこに向かうのでしょうか。未婚率も高い日本では、相続人がいない場合に所有していた財産は「国庫」に納められます。
そこで、この記事では「おひとりさまの遺産」に注目します。国庫納付や今だからこそ知っておきたい遺贈について紹介しますので、ぜひご一読ください。
目次
おひとりさま遺産はなぜ国庫へ納められる?
被相続人が遺した財産は、民法で定められた法定相続人が受け継ぎます。法定相続人以外の内縁の方や、法人は被相続人にはなれません。
民法では法定相続人の順位も定められています。しかし、未婚率も2000年~2020年の間で急激に上昇(※1)している日本では、被相続人に相続人がいないケースも多く発生しています。
未婚でお子さまも居ない場合、両親や兄弟姉妹が法定相続人になりますが、被相続人より先に死去している等のケースでは、「相続人がいない」状態になります。相続人がいない場合、被相続人の財産は国庫に納められることがあります。では、なぜ国庫に納められるのでしょうか。
参考URL 令和5年版 厚生労働白書-つながり・支え合いのある地域共生社会-図表1-1-9 年齢階級別未婚割合の推移
国庫に帰属されるのは最終的な解決方法
被相続人に相続人がいなければ財産は国庫に帰属しますが、この方法は「最終的な解決方法」です。本当に相続人がいないのか、特別縁故者もいないのかなど、調べた上で、誰も財産を相続する人がいないのか調査が必要です。
調査では、「相続人捜査の公告」の申立てを裁判所に対して行います。公告期間中に誰も相続人であると権利を主張しなければ、相続権は消滅します。(相続人不存在の確定)
公告期間満了後に、特別縁故者の財産分与の申立期間がありますが、誰も名乗り出なかった場合には、国庫に納付されます。
過去10年の国庫納付の推移
国庫に帰属する相続財産は増加の一途を辿っていますが、過去10年はどのような推移でしょうか。2023年12月24日のNHK「相続人いない財産」過去最多768億円が国庫へ」の報道によると、相続人がいないために国庫に納められた金額は、2022年度には768億9444万円と、記録が残る2013年度以降、最も多くなったとされています。
引用 2023年12月24日 NHK「相続人いない財産」過去最多768億円が国庫へ
過去10年で国庫納付は倍以上に
同様にNHKの報道によると、2013年度の総額は336億円であり、過去10年間での相続人不存在による国庫納付は、驚くことに2倍以上の上昇となっています。
相続人に代わって被相続人の財産を管理する相続財産清算人(相続財産管理人から名称が変更されています)の裁判所への申立件数も、2016年の4817件から、2022年には6653件にまで上昇しており、今後も上昇をする可能性は高いでしょう。
では、なぜ相続人のいない相続はここまで上昇の一途を辿っているのでしょうか。
相続人のいない相続が急増している理由
相続人がおらず、最終的な解決方法である国庫への納付が増加の一途を辿っている理由には、以下が考えられます。
1.未婚により、配偶者も子もいない
法定相続人は、常に配偶者が相続人となり、その他は以下のように定められています。
第1順位 直系卑属 (子や孫)
第2順位 直系尊属 (両親や祖父母)
第3順位 兄弟姉妹
結婚しておらず、子もいない場合、第2順位の直系尊属が相続人となりますが、すでに死去していて、兄弟姉妹も元々いない(※あるいは死去している)場合には相続人がいないため、国庫に納付する可能性が高くなります。内縁の妻や夫、同棲のパートナーは民法上の法定相続人にはなれません。特別縁故者に認めてもらうか、遺言書による財産の承継が必要でしょう。
※兄弟姉妹がいてすでに被相続人よりも前に死去している場合、甥や姪がいる場合は代襲相続が発生し、相続人となります。ただし、甥や姪も亡くなっている場合、再代襲相続は発生しません。
2.相続放棄している、欠格・廃除がある
被相続人に相続人がいても、債務が大きい場合や生前から没交流の関係だった場合になどは、相続放棄をする場合もあります。相続放棄が家庭裁判所に認められると、相続人ではなくなります。相続人全員が相続放棄を完了させた場合は、相続人は不存在となります。
この他に、相続人が被相続人を強迫するような行為があった場合などは、相続人から相続の権利を失くす欠格、被相続人の意思によって相続権をはく奪する廃除があるケースも存在します。
ライフスタイルの変化が、おひとりさま相続につながっている
未婚率の上昇にも触れましたが、単身世帯が増加していることもあり、兄弟姉妹などの相続人がいても、生前から交流がなく財産を相続放棄するケースは決して珍しくありません。また、独居老人の場合は高齢により、相続人全員が亡くなられていることも考えられます。
また、結婚という制度に縛られず、内縁関係や同性のパートナーと生活している場合、民法上の相続人には認められません。厳格に運用されている特別縁故者にも認められにくいため、最終的に国庫への納付となるケースもあります。ライフスタイルの変化とともに、おひとりさまの相続は増加の一途を歩んでいるのです。
遺贈という選択肢|おひとりさま相続を今こそ考えよう
単身世帯の方で、現在家族との交流が乏しいケースや、すでに相続人に該当する方が亡くなられている場合は、今後ご自身の所有している財産は、死去後に国庫に納付される可能性が高いでしょう。そこで、「遺贈」という選択肢に目を向けてみましょう。
遺贈とは、遺言によってご自身の財産のゆくえを決めることです。法定相続人以外にも、財産を遺せる方法であり、近年注目度が高まっています。
おひとりさまにこそ遺贈がおすすめされる3つの理由
一般的に遺言書は、遺される財産を円満に家族に分配する、あるいはもらってほしい人を指名したい等の思いから作ることが多いでしょう。しかし、おひとりさまにこそ、遺贈がおすすめされる理由が3つあります。
1.望まない相続を防げる
すでに疎遠になっている家族がいる場合、ご自身の大切な財産を、交流が無い親族が相続人として継承する可能性があります。遺言書で遺贈すれば、ご自身の望みの団体などにも財産を渡すことができ、望まない相続を防げます。
2.恩返しができる
近年は遺贈を募る団体が増え、私立大などでも積極的に遺贈寄付を依頼する動きがあります。また、恵まれない子どもたちを助ける団体や、医療関係や動物愛護団体なども積極的です。かつてお世話になった母校や、最後の社会貢献の意味を込めるなど、恩返しの意味を込めて遺贈することができます。
3.法定相続人以外の近しい方へ財産を渡せる
内縁の方や同性パートナーの方、生前病気や通院を支えてくれた方など、遺贈なら法定相続人以外の近しい方へも財産を渡すことができます。
遺贈は早くから対策を|その他の方法も検討しながら前向きに考えよう
遺贈は遺言書を使って財産を遺す方法です。遺言書は自分で作る自筆証書遺言という方法もありますが、安全に保管するなら「公正証書遺言」という方法を検討することがおすすめです。また、遺言執行者を指定する必要があるほか、遺贈には種類があり、その中身は大きく異なります。
特定遺贈と包括遺贈の違い
2つの遺贈の種類とは、「特定遺贈」と「包括遺贈」です。
・包括遺贈とは
包括遺贈とはご自身の遺産のすべて、や8割、など包括して遺贈するものです。
・特定遺贈
特定遺贈はご自身の財産のうち、不動産は〇〇さんへ、預貯金は■■団体へ、など財産の種類を特定して遺贈する方法です。
スムーズに団体などへ遺贈する場合は、どの財産を包括するのか計算が不要となる特定遺贈が選びやすくなっています。また、取得時に税金がかかる不動産(不動産取得税や登録免許税など)は、遺贈先にお金も手続きも負担となる可能性があるため慎重に検討しましょう。
その他の対策もあわせて検討しよう
その他の対策方法については、下記記事をご確認ください。
【おひとりさま相続が増加中】生前対策を専門家に相談すべき理由
まとめ
この記事では、おひとりさま遺産は国庫に納付される理由や、遺贈について中心に詳しく解説を行いました。遺贈は遺言書で行える、「未来への財産の道しるべ」です。おひとりさまの相続にも、有効な相続対策の1つですので、ぜひこの記事をきっかけに、ご自身の財産の遺し方について、じっくりご検討ください。