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2024年に押さえておきたい相続制度改正と税制改正

2024年に押さえておきたい相続制度改正と税制改正

2023年から2024年にかけて、相続制度や相続税制の改正が数多く行われました。
背景には、所有者不明不動産や空家による社会問題、節税の行き過ぎなどがあります。
本稿では、相続制度改正と税制改正に分けて解説します。

1 相続制度改正について

1-1 相続登記の義務化

1-1-1 相続登記の義務化の概略とペナルティ

これまで、相続登記は任意のもので、期限も定められていませんでした。そのため、相続があっても相続登記せずに放置されるケースが多発しました。
2021年4月の法改正で、不動産登記法が改正され、相続登記が義務化されました。
それによると、「自己のために相続の開始があったことを知り、かつ、当該所有権を取得したことを知った日」から3年以内に相続登記をしなければならなくなりました(不動産登記法76条の2第1項)。
規制に反して3年以内に相続登記をしなかった場合には、10万円以下の過料という行政罰が課されます(同法164条第1項)。

相続登記を義務化する改正法が成立、2024年4月までに施行されます!のページもご参照ください。

1-1-2 遺産分割協議がまとまらない場合①

複数の相続人間の遺産分割協議がまとまらず、3年以内に相続登記をするのが難しい場合もあります。
このような場合、相続開始から3年以内にまず法定相続分で相続登記を行い、後日、遺産分割協議が合意に至ったら、遺産分割の日から3年以内に、その結果を反映した登記申請を行えば、上記のペナルティを免れることができるようになりました(同法76条の2第2項)。

1-1-3 遺産分割協議がまとまらない場合②

「相続人申告登記」という制度も用意されました。
この制度は、相続が開始したことと自分が相続人であることを登記官に申告すればその旨を登記してもらうことができ、相続そのものについて登記せずに3年経過してもペナルティが課されないというものです(同法76条の3第1項)。
但し、遺産分割協議がまとまった場合には、遺産分割の日から3年以内に相続登記をしないと、過料制裁の対象となります。

1-1-4 登記手続の簡略化

  1. これまでは、遺贈に基づく登記は、相続人全員と受遺者が共同申請する必要があり、相続人全員の協力が得られず登記できないケースもありました。
    そこで、遺贈が相続人に対するものの場合には、受遺者ひとりで遺贈登記ができるようになりました。
  2. 法定相続分での相続登記後に遺産分割がまとまり持分移転登記をする場合には、持分を取得する相続人がひとりで、更簡易な更正登記により登記することで足りるとされました。

1-2 長期間経過後の遺産分割規制

1-2-1 長期間経過後の遺産分割の原則

これまで、不動産が相続された場合の遺産分割に期限はありませんでした。相続開始から何十年経っても遺産分割協議や調停ができました。
これは裏返すと、相続が開始しても、長期間不動産の名義変更がされずに放置されることを意味します。
そしてそのために、所有者不明の不動産が多発しました。
2023年4月施行の民法改正で、相続開始から10年を経過した後に遺産分割を行う場合には、原則として法定相続分や遺言による指定相続分の遺産分割しかできないとされました(民法904条の3本文)。

1-2-2 例外

以下の例外に該当する場合には、法定相続分や指定相続分と異なる遺産分割ができます。

  1. 相続開始から10年を経過する前に、相続人が家庭裁判所に遺産分割を請求したとき(同条1号)。
  2. 相続開始から10年が満了する前6か月以内に、遺産分割請求を行うことができないやむを得ない事由が相続人にあって、その事由が消滅したときから6か月を経過する前に、当該相続人が家庭裁判所に遺産分割を請求したとき(同条2号)。

1-3 遺産共有と通常共有が併存する場合の分割手続簡略化

1-3-1 従来の制度

遺産分割による共有(遺産共有)が生じる前に既に当該不動産が共有状態(通常共有)にあった場合、これまでは、遺産分割を行って遺産共有を解消してから共有物分割請求を行わないと、不動産の共有状態が解消できませんでした。

1-3-2 改正後

遺産共有と通常共有が併存する場合、相続開始から10年を経過した後は、相続人からの異議がない限り、共有物分割訴訟のみによって、共有持分の分割を請求できるようになりました(民法258条の2第2項)。
この場合は、法定相続分や遺言による指定相続分が基準となります(同法898条第2項)。

1-4 相続財産管理制度の改正

1-4-1 相続財産管理制度の拡大

従来、相続人が不明の場合や、相続人が単純承認してから遺産分割までの間、相続財産管理制度を利用できませんでした。そのために、相続不動産の保存ができず、例えば、土地上の樹木の枝が伸びて近隣に迷惑をかけても対応できませんでした。
2023年法改正により、相続開始から遺産分割までの間、家庭裁判所は、利害関係人や検察官の請求により、家庭裁判所が、相続財産管理人を選任したり財産の保存のために必要な処分を命じたりすることが可能となりました(民法897条の2)。

1-4―2 相続放棄の場合の相続財産管理責任の限定

これまでは、相続放棄をしても、相続財産を他の相続人や相続財産管理人に引き渡すまで、相続財産の管理義務があるとされていました。要件や内容が明らかでないまま、相続放棄した人が過剰な負担を強いられることも少なくありませんでした。
2023年の法改正により、相続を放棄した人は、相続財産を占有しているときに限って、相続財産の管理をする義務を負うことが明記され、責任範囲が限定されました(民法940条第1項)。

1-4-3 相続財産清算手続の簡略化

これまで、相続財産管理人が遺産の清算を行い場合には、3回の公告手続が必要で、権利確定に時間がかかっていました。
2023年改正後は、手続が合理化され、6か月という短期間で手続を終了させることが可能となりました(民法952条2項)。

2 税制改正について

2-1 タワマン節税に関する税制改正

2-1-1 タワマン節税とは?

タワーマンションは、階層が高いほど眺望が良く市場価格が高くなりますが、相続税評価額は床面積が同じであれば同じで、階層には影響されません。
マンションの階層が高いほど、市場価格と相続税評価額の差が広がって、相続税の負担を軽減できました。
これを利用して、階層が高いタワーマンションを購入して相続税を軽減させるのが、いわゆるタワマン節税です。

2-1-2 タワマン節税のルール改正と対策

タワーマンションを利用した過度な節税が問題視され、2024年1月以降、マンションの市場価格と相続税評価額の乖離率が1.67倍以上となる場合には、相続税評価額が市場価格の60%になるよう補正されることになりました。
これにより、階層が高いタワーマンションを購入するだけでは、相続税の負担を大幅軽減することは見込めなくなりました。

2-2 生前贈与の際の贈与税改正

2-2-1 暦年課税方式のルール改正

贈与税の課税方式には「暦年課税」と「相続時精算課税」があります。
「暦年課税」とは、1月1日から12月31日までの1年間に贈与された財産の合計額に応じて課税される方式です。年間110万円までが基礎控除されます。
「相続時精算課税」とは、受贈者が2500万円まで贈与税を納めずに贈与を受けることができ、贈与者が亡くなった時に、贈与財産の贈与時の価額と相続財産の価額とを合計した金額から相続税額を計算し、一括して相続税として納税する制度です。
暦年課税方式では、従来、相続開始前3年以内の贈与について相続財産に加算することとされていましたが、2023年法改正(2024年1月から施行)では、加算期間が7年に延長されました。

2-2-2 相続時精算課税方式のルール改正

相続時精算課税制度についても、年間110万円の基礎控除が認められるようになりました。2024年以降に相続時精算課税制度を選択すると、年110万円までは贈与税も相続税もかからなくなりました。

2-2-3 どちらの方式を選択すべきか?

暦年贈与方式と相続時精算課税制度のいずれを選択すべきかは、被相続人になるべき人の年齢が基準となります。
被相続人となるべき人の余命が長くない場合には、相続時精算課税制度の基礎控除を利用するのがよく、まだ元気な場合には暦年贈与方式の基礎控除を利用してより多くの資産を移転するのがよいと考えられます。

2-3 空家相続の特別控除特例

2-3-1 問題の背景

空家の多くは旧耐震基準のもとで建築されており、放置すると震災時に大規模な被害が発生させる恐れがあります。
そこで、2018年税制改正により、一定の要件を満たした空家を譲渡した場合、譲渡所得から3000万円が控除されるようになりました。
そして、2023年税制改正により、2024年1月1日以降、対象となる譲渡が拡大されました。

2-3-2 特別控除の要件(2023年改正以外)

  1. 被相続人がひとりで居住していたこと
  2. 1981年5月31日以前に建築された建物であること
  3. 相続から譲渡まで引き続き空家であること
  4. 売却代金が1億円以下であること
  5. 親子や夫婦など特別な関係の人以外への譲渡であること

2-3-3 2023年改正による対象拡大

従前は、特別控除の対象とするには、売却時に耐震基準を満たすよう修繕するか、更地にして譲渡することが必要でした。
2023年税制改革により、2024年1月1日以降の譲渡からは、買主が譲渡の日の属する年の翌年2月15日までに耐震改修または除却の工事を行った場合、工事の実施が譲渡後であっても、特別控除の対象となることになりました。

3 最後に

相続制度の改正も税制改正により、各制度は複雑になり、当事者が自身の判断で対応することを難しくなりました。
相続や税金対策は、弁護士や司法書士、税理士などの専門家にご相談ください。

この記事を書いた人:弁護士 寺林智栄

2005年司法試験合格。2007年弁護士登録。弁護士業の傍ら、2013年より、webサイト上で法律記事の執筆を開始する。弁護士としての多様な業務の経験をもとにして、多様な法律分野で執筆活動を行っている。

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