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【遺言執行者とは】その役割と権限、選任すべきケース、誰にするかなどを弁護士が解説

【遺言執行者とは】その役割と権限、選任すべきケース、誰にするかなどを弁護士が解説

相続手続に際して選任されることがある遺言執行者。
名前は知っているけれど、実際にどのような役割を果たし、どのような権限があるのか、報酬はかかるのかなど、わからないことが多いという方も少なくないでしょう。
そこで今回は、遺言執行者について網羅的に解説していきます。

1 遺言執行者とは

遺言執行者とは、「遺言の内容を実現するため、相続財産の管理その他遺言の執行に必要な一切の行為をする権利義務を有する」者のことです(民法第1012条)。
遺言が開封された時点で、遺言者は既に亡くなっているため、遺言の内容を実現することができません。
そこで、遺言の実行をするために、遺言執行者が選任されることとなります。

2 遺言執行者の役割と権限

遺言執行者の具体的な役割と権限は以下のとおりです。

2-1 遺言執行者の役割

遺言執行者は1でも記載したとおり、遺言の内容を実現する役割を担います。相続人と利益が相反する場合であっても遺言内容を執行する職務を遂行する役割を負います。
そのため、以下のような広い権限を持つこととなります。

2-2 遺言執行者の権限

遺言執行者の代表的な権限は以下のとおりです。

  1. 相続人調査
  2. 相続財産調査
  3. 財産目録の作成
  4. 貸金庫の解錠、解約、取り出し
  5. 預貯金払戻し、分配
  6. 株式の名義変更
  7. 自動車の名義変更
  8. 不動産の登記申請手続
  9. 寄付
  10. 子どもの認知
  11. 相続人の廃除と取り消し
  12. 保険金の受取人変更

上記のうち、「コ 子どもの認知」及び「サ 相続人の廃除と取り消し」は遺言執行者しかすることができません。この点については、後で詳しく解説します。

2-3 遺言執行者ができないこと

相続税の申告は、相続人の義務であるため、遺言執行者の権限には含まれません。

3 遺言執行者は単独で相続登記もできる?

2-2の「ク 不動産の登記申請手続」について、従前、「法定相続人に相続させる」という遺言があった場合には、遺言執行者単独では相続登記できないとされていました。
しかし、2019年の法改正により、現在では、遺言執行者が単独で登記申請できるようになりました。
もちろん、上記のような遺言ではない場合も、問題なく遺言執行者は単独で登記申請することができます。

4 遺言執行者を選任すべきケースとは

遺言執行者を選任すべきケースは、具体的には以下のとおりです。

4-1 相続人に負担をかけたくない

相続人が遠方の居住している、多忙であるなどの事情により、相続手続のために負担をかけたくないという需要がある場合には、遺言執行者を選任して対応を任せるのが望ましいといえます。

4-2 相続人が自分たちで手続しそうにない

手続に非協力的な相続人がいる、相続人が法律的な問題に疎い、認知症の人が相続人の中にいるといった場合には、相続人に任せておくといつまでも手続が進みません。
このような場合には遺言執行者を選任すると有効です。

4-3 子どもを認知する場合

先ほども記載したように、遺言書による子どもの認知は遺言執行者しか行うことができません。
そのため、遺言書に子どもの認知の記載がある場合には、遺言執行者の選任は必須となります。

4-4 相続人廃除・その取り消しをしたい場合

相続人の廃除とは、被相続人に対する虐待・重大な侮辱・その他の著しい非行があった場合に、相続権を持っている人のうち遺留分権利者を相続から外す制度です。
生前に家庭裁判所に相続人廃除の申立てをすることもできますが、被相続人の死後に家庭裁判所に申し立てるよう遺言に残しておくことも可能です。
また、一度廃除をした後にこれを取り消すことも可能です。
被相続人が自ら生前に行った廃除について家庭裁判所に取り消しの申立てをすることもできますが、死後に家庭裁判所に取り消しの申立てをするよう遺言に残しておくこともできます。
遺言による廃除やその取り消しは、先にも述べたように遺言執行者しか行うことができません。
そのため、遺言に廃除や取り消しの申立をするよう記載されている場合には、遺言執行者を選任することが必要となります。

5 遺言執行者を誰にするか及びその選任方法

遺言執行者は、未成年や破産者でない限り誰でも就任することができます。相続人の中から選任しても構いません。
しかし、相続人の中から選任すると他の相続人が反発することも少なくないため、弁護士や司法書士等の専門家を選任するのが望ましく、相続手続もスムーズに進行することが多いといえます。
遺言執行者の選任方法には、以下の2つがあります。

5-1 遺言者本人が指定する方法

ひとつめの方法は、遺言者本人が遺言により遺言執行者を指定するものです。
具体的には、遺言書に、遺言執行者になってもらいたい人の氏名や住所を記載し、「遺言執行者として選任する」と定めておきます。

5-2 相続人が遺言者の選任を申し立てる方法

遺言者が遺言執行者を選任しなかった場合、相続人等が家庭裁判所に申立をして遺言執行者を選任してもらう方法があります。
遺言執行者の選任を申立てることができるのは、相続人の他、受贈者、債権者などの利害関係人と定められています。
遺言執行者の選任を申立てるのは、遺言者の最終住所地を管轄する家庭裁判所となります。
申立てに際しては、以下の書類を提出することが必要です。

  1. 申立書
  2. 遺言者の死亡の記載のある戸籍謄本
  3. 遺言執行者候補者の住民票
  4. 遺言書の写し
  5. 利害関係、相続関係がわかる資料(戸籍謄本等)

6 遺言執行者の報酬の相場

遺言執行者の報酬は、遺言書に金額や支払方法が明記されている場合には、これに従うこととなります。
相続人が遺言執行者に指名されている場合には、執行報酬をもらわないケースもあります。
弁護士や司法書士などの有資格者が選任された場合には、遺産総額の1~3%が報酬の相場となります。

7 遺言執行者は解任・変更できるのか?

遺言や家庭裁判所への申立てにより遺言執行者が選任された場合でも、手続を進める中でトラブルとなってしまう場合があります。
このような場合には、相続人は遺言執行者の解任・変更することが可能です。
遺言執行者を解任したい場合には、家庭裁判所に解任の申立てを行います。
但し、解任申立てには、利害関係人全員の同意と「解任の正当事由」が必要です。
具体的に、解任の正当事由があると認められやすいのは、遺言執行を行わない、財産の使い込み、報酬が高額過ぎるなどの事由がある場合です。
そのため、遺言執行者の解任は簡単にできるものではありません。
遺言執行者を解任できた場合、これに引き続いて遺言執行者選任の申立てを行えば、別の人に遺言執行者を変更することが可能です。

8 まとめ

今回は、遺言執行者について網羅的に解説しました。
相続手続において遺言執行者が果たす役割は大きいことがお分かりいただけたと思います。
これから遺言を作成しようと考えている方、相続が発生したものの、諸事情により手続がなかなか進行せずに困っている相続人の方は、是非、遺言執行者の選任をご検討ください。
先にも述べたように、円滑に相続手続を進めるためには、利害関係のない専門家を遺言執行者として選任するのが望ましいといえます。
費用はかかりますが、相続人と遺言執行者の間のトラブルを防ぐためにも、弁護士や司法書士などの専門家を選任することが有効でしょう。

この記事を書いた人:弁護士 寺林智栄

2005年司法試験合格。2007年弁護士登録。弁護士業の傍ら、2013年より、webサイト上で法律記事の執筆を開始する。弁護士としての多様な業務の経験をもとにして、多様な法律分野で執筆活動を行っている。

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