【遺贈寄付とは】おひとりさま相続の選択肢|寄付との違いとは
財産を次の世代へ遺す方法としては「相続」が広く知られています。一般的に知られている相続は、遺言書を残さず死後に法定相続人が亡くなられたご家族(被相続人)の財産を受け取ります。
しかし、法定相続人は民法で定められており、該当しない方は財産を受け取ることができません。では、おひとりさまの相続で財産をどなたかに渡したいと考えた時に、法定相続人以外へ財産を渡す方法はあるのでしょうか。そこで、本記事ではおひとりさま相続の選択肢として「遺贈寄付」をご紹介します。一般的な寄付との違いや、手続きの流れもあわせて解説いたしますので、ぜひご一読ください。
目次
遺贈寄付とは|寄付との違い
遺贈寄付とは、寄付をしたい方が亡くなった後に、所有していた財産を一部もしくはすべてを寄付することを意味します。この章では寄付との違いや、一般的な遺贈との違いについて詳細を解説します。
遺贈寄付と寄付との違い
遺贈寄付と、一般的な寄付は寄付を行うタイミングが明確に異なります。
① 一般的な寄付
一般的に行われている寄付が、生前にボランティア団体や被災地などへ自身の金銭などを送ることを意味します。寄付の対象は慈善団体、孤児院やNPO法人、学校や図書館などの公共施設などが考えられ、食料や本、パソコンなどの物品を送ることも可能です。
② 遺贈寄付
遺贈寄付は、寄付をしたい方が亡くなった後に所有していた財産の一部もしくはすべてを寄付することを意味します。亡くなった後に発生する寄付のため、生前にどこに寄付をしたいのか意思表示を行っておく必要があります。
遺贈と遺贈寄付との違いとは
ご自身の大切な財産を、遺言書を使って死後に法定相続人以外の第三者へ財産を遺すことを「遺贈」と言います。生前に遺言書を残し、死後にその内容に沿って財産を指定された受贈者が受け取ることができます。受贈者の意志に関係なく財産を遺せるため、内縁の方や同性パートナー、団体への遺贈も可能です。介護に従事してくれた子の配偶者など、生前にお世話になったものの、法定相続人ではないため相続では財産を渡せないケースでも、遺贈はよく行われています。
では、遺贈と遺贈寄付との違いはどのような点でしょうか。
遺贈寄付は、主に社会貢献を目的に活動する団体へ遺贈することを意味します。遺贈は個人も含むことに対して、遺贈寄付は社会貢献を目的とする団体が対象であり、対象が異なります。
主な遺贈寄付先には、医療系団体・動物保護団体・貧困や子育て対策を行う団体・国際協力や災害支援を行う団体が挙げられ、自治体も遺贈寄付の窓口を開設していることがあります。たとえば、東京都の場合は社会福祉協議会や被害者支援都民センター、国立大学、東京国立博物館などが遺贈寄付を受付しています。
遺贈寄付を行いたい|手続きの流れとは
おひとりさま相続を迎える可能性がある場合、法定相続人以外の方に大切な財産を遺したいとお考えの方もいらっしゃるでしょう。そこで、この章では遺贈寄付を実際に行う場合の、手続きの流れを解説します。
遺贈寄付の流れ
遺贈寄付を実際に行う場合は、以下の4つのステップに沿って準備を進めます。
① 専門家・団体への相談
遺贈寄付自体は遺言書によって、遺贈寄付先の承諾を得ずとも実行することは可能です。しかし、団体によっては遺贈受付の方法が異なっていたり、準備が整っていない可能性も考えられます。そこで、まずは遺贈寄付に詳しい弁護士・司法書士・税理士・行政書士などの士業や遺贈寄付を紹介する団体、遺贈寄付をしたい団体へ相談から始めましょう。
② 遺贈先と遺贈寄付する財産の選定
遺贈寄付では、生前に遺贈寄付先を決める必要があります。①の相談にて遺贈寄付先候補を絞り、選定ができたら次にどのような財産を遺贈寄付するのか選定します。
ご自身の財産の一部もしくはすべてを寄付できます。たとえば不動産は配偶者へ、それ以外の財産はすべて寄付へ、と決めることも可能です。遺贈方法には財産の種類を指定する「特定遺贈」と、全ての財産から割合のみ指定して遺贈する「包括遺贈」があります。
包括遺贈は遺贈者(財産を渡す方)が生前に残した債務も含めて、遺贈先が承継しなければならないなどの負担が発生します。そのため、一定の条件を満たしていなければ包括遺贈を受付しない団体もあります。遺贈方法についても①の相談時に決めておくことがおすすめです。
詳しくはこちらの記事もご一読ください。
→【おひとりさま遺産は国庫へ】倍増する国庫納付や遺贈について解説
③ 遺言書の作成・遺言執行者の選定
遺贈寄付は遺言書に沿って実行するため、遺贈寄付先・寄付したい財産および寄付の方法が確定した段階で、遺言書を作成します。
遺言書の作成方法には、自筆証書遺言・公正証書遺言・秘密証書遺言の主に3つの方法がありますが、記載ミスなく安全に遺言書を保管する場合には「公正証書遺言」を選ぶことがおすすめです。
なお、遺贈寄付を死後に滞りなく進めるためには「遺言執行者」の選定も大切です。遺言執行者は遺言に書かれた内容の実現に向けて一切の行動を担う権利を有します。相続人がいるケースでは特に財産を巡ってトラブルとなることも予想されるため、遺言執行者を定めて置き、遺言書に記載しておきましょう。
■遺言執行者になれる人とは
遺言執行者は未成年者や破産者以外のどなたでもなれます。(民法第1009条)しかし、遺贈寄付は遺贈に関する知識や経験も有している専門家を選んでおくことがおすすめです。法的な知識が豊富な弁護士や司法書士、行政書士などを選ぶことが多くなっています
④ ご逝去後の遺言の執行
遺言した方がお亡くなりになられたら、保管されていた遺言書に沿って手続きを開始します。遺言執行者がいる場合は、遺言の執行を取り仕切ります。遺贈寄付先に財産を遺贈したり、遺言書の内容に応じてその他の方にも財産を分けていきます。
遺贈寄付を検討したら|知っておきたい注意点とは
遺贈寄付をご検討されている場合、あらかじめ知っておきたい注意点があります。以下にて3つに分けて解説しますので、ご一読ください。
1.相続税に関する注意点
遺贈寄付は原則として「相続税の対象」にはなりません。そもそも相続税は個人が対象となるものであり、団体へ寄付する遺贈寄付では発生しません。ただし、相続税を意図的に減らすことを目的とした寄付が疑われる場合は、法人に対して課税が行われる可能性があります。遺贈寄付先が「相続税がかからない団体であるか」を、きちんとご確認されることが大切です。
なお、相続人がいるケースでは遺言寄付によって団体に遺贈された財産については被相続人(遺贈した方)について準確定申告を行うことで「寄付金控除」が受けられます。
2.遺贈寄付先が困らない財産を寄付すること
遺贈寄付でご自身の財産を有意義に使ってほしい場合、遺贈寄付先が困らない財産を遺すことがおすすめです。処分に困ってしまう不動産や、価値がわからない骨とう品類は受け取れない可能性もあります。すでに既出ですが、専門家や団体側に生前に相談する際には、どのような財産なら遺贈寄付の受け入れが可能か確認しておきましょう。
特におひとりさま相続で、すべての財産を寄付したいと思っていても、遺贈寄付先が受け入れられない財産も含まれている可能性があります。十分に打ち合わせをした上で、遺言書に記すようにしましょう。
まとめ
今回の記事では、おひとりさま相続の選択肢である「遺贈寄付」について、一般的な寄付との違いや実際の手続きの流れを中心に詳しく解説を行いました。
遺贈寄付は近年注目が高まっており、さまざまな研究機関や公共団体等も積極的に受け入れを表明しています。その一方で、一般的な相続手続きよりも複雑な生前からの手続きを要するため、慎重に打ち合わせを行うことがおすすめです。