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生前贈与による相続の準備

 

将来の遺産相続を控えていると、気になるのが「相続税」。
また「相続人たちの遺産相続トラブルが心配」という方も多いでしょう。
そんなときに活用したいのが「生前贈与」です。
生前贈与を上手に使うと相続税の節税対策にもなりますし、遺産相続トラブルの予防も可能です。

今回は「生前贈与とは何か」「生前贈与の活用方法」についてご説明していきます。

 

生前贈与とは

生前贈与とは、生きている間に財産を譲ることです。たとえば父親が生きている間に息子と話し合いをして不動産や預貯金を贈与するのが生前贈与です。

生前贈与しておくと、生前に財産が次の世代に移転するのでその財産は「相続財産」から外れます。相続税の計算対象にも遺産分割の対象にもならないので相続対策として利用されるケースが多数あります。(ただし一部例外があります)

生前贈与と節税対策

生前贈与は相続税の節税対策によく利用されます。

生前贈与が相続税対策に有効な理由

生前贈与をしておくとその財産は遺産ではなくなるので、相続税が課税されません。極端な例を挙げると、すべての財産を生前贈与しておけば、相続税を0にすることも可能です。

ただし死亡前3年間にした贈与については基本的に相続税の課税対象となります。例外的に、孫への生前贈与の場合には、3年以内であっても相続税がかかりません。
生前贈与で相続税対策をするなら、早めに対応しましょう。

生前贈与すると贈与税が発生する

生前贈与をすると相続税はかかりませんが「贈与税」が発生します。贈与税を考えずに生前贈与すると、相続税以上に高額な税金がかかる可能性もあります。
ただ贈与税にはさまざまな「控除制度」がもうけられているので、上手に利用すると節税できます。
以下でよく相続対策に利用しやすい控除制度をご紹介していきます。

生前贈与による節税方法

暦年贈与

贈与に認められる「基礎控除」を利用した節税方法です。贈与税には「毎年110万円分の贈与までは贈与税がかからない」という基礎控除があります。これを利用すると、毎年一人あたり110万円分までは無税で生前贈与できます。贈与対象となる財産の種類は問わず、お金でも不動産でも株式でも何でもかまいません。
たとえば子どもが3人いる方の場合、1人に110万円ずつ生前贈与して10年が経過すれば、計3300万円を無税で贈与できます。

相続時精算課税制度

親や祖父母が子どもや孫などに生前贈与するときに最大2,500万円までの贈与分に贈与税がかからなくなる制度です。ただし将来遺産相続が発生したときには贈与時の時価で相続財産に算入されて相続税の課税対象になります。「完全に無税になる制度」ではありません。
親が子どもにまとまった価額の不動産などの財産を贈与したいときに有効です。

配偶者控除

贈与税には配偶者控除があります。これは、20年以上連れ添った夫婦が居住用不動産やその購入、建築費用を贈与するときに2,000万円分まで無税とする制度です。
将来夫が死亡した後の妻の生活が心配な場合などに利用すると良いでしょう。ただし同じ配偶者間の場合、一回しか利用できません。

子どもや孫への住宅資金贈与

親や祖父母が子どもや孫に住宅資金贈与をするとき、一定額までは無税にしてもらえます。
適用されるのは不動産購入「資金」を贈与する場合です。「不動産そのもの」の贈与や「住宅ローンの肩代わり」の場合には適用されません。
控除対象となる額は、贈与契約の時期や住宅の種類によって異なります。最大で3,000万円までが無税となるので、利用価値は高いでしょう。

子どもや孫への教育資金贈与

親や祖父母が子どもや孫に教育資金を贈与するときにも一定額までが無税となります。
これを教育資金の一括贈与制度といいます。学費などの場合には最大1,500万円、習い事や塾の費用などの場合には500万円までが無税になります。
制度を利用するためには、まずは受贈者名義で信託銀行に口座を開き、親や祖父母などが資金を振り込まねばなりません。その後受贈者が必要な費用を出金して使っていきます。
贈与を受けた子どもや孫が30歳になったら制度の適用が終了し、その時点で残っている残高に対しては贈与税がかかります。

子どもや孫への結婚・子育て資金贈与

親や祖父母が子どもや孫に結婚・子育て資金を贈与するときにも、一定額までが無税となります。制度の利用方法は教育資金の一括贈与制度とほとんど同じで、信託銀行を使います。
無税となる範囲は、子育て資金であれば1,000万円まで、結婚資金の場合には300万円が上限です。
贈与を受けられるのは20歳から50歳までの子どもや孫などの直系卑属です。贈与を受けた子どもや孫が50歳になったら制度の利用が終了し、そのときに残っている残高に贈与税が課税されます。

生前贈与による相続トラブル防止効果

生前贈与には相続税節税のみならず、相続トラブルの防止効果もあります。
たとえば長男に自宅不動産を譲りたいとき、不動産を長男に生前贈与しておけば遺産分割協議で他の相続人が不動産の権利を主張することはできなくなります。
「特定の人に確実に財産を移転させたいとき」に有効です。

特別受益の持ち戻し計算に注意

相続人になる予定の人に生前贈与するときには「特別受益の持ち戻し計算」に注意が必要です。
「相続開始前10年間」に行われた生前贈与は「特別受益」となるからです。特別受益を受けた相続人がいると、遺産分割協議の際にその相続人の遺産相続分が減らされます。これを「特別受益の持ち戻し計算」と言います。
たとえば長男に自宅を生前贈与した場合、将来相続が発生して遺産分割協議を行うとき、長男の遺産取得割合を減らされます。長男が持ち戻し計算を否定して他の兄弟とトラブルになる可能性が高くなります。

遺留分請求が行われる可能性もある

長男への贈与が他の相続人の「遺留分」を侵害するときには、他の相続人から「遺留分請求」が行われてトラブルが発生する可能性もあります。

生前贈与をするときには「特別受益の持ち戻し計算対策」と「遺留分対策」が必要です。

なるべく早期に生前贈与をする

生前贈与によって特別受益の持ち戻し計算や遺留分請求の対象になるのは「相続開始前10年間」に生前贈与が行われたケースです。それより前ならトラブルの原因になりません。そこでなるべく早めに生前贈与を行うことが1つの対策方法になります。

特別受益の持ち戻し計算を免除する

特別受益の持ち戻し計算は、贈与者の意思によって免除できます。遺言書で「特別受益の持ち戻しをしない」と明らかにしておけば、他の相続人は遺産分割協議の際に特別受益の持ち戻し計算を主張できなくなります。生前贈与をするなら、同時に遺言書を作成して特別受益の持ち戻し計算免除の記載をしておきましょう。

遺留分対策方法について

遺留分については、侵害しないように計算して生前贈与しましょう。もしくは遺留分請求が行われた場合に備えて、受贈者に生命保険金を受け取らせるよう準備しておく方法などが考えられます。生命保険金は遺産分割の対象にならないので、長男などの受贈者が死亡保険金を受け取ったら、そこから兄弟へ遺留分侵害額を払うことが可能となります。

生前贈与はさまざまな目的での相続対策に非常に有効です。自分だけでは利用方法がわからない場合には弁護士や税理士などの専門家に相談してみましょう。

 

相続とは何か(全12 回)

この記事を書いた人:元弁護士 福谷陽子

京都大学法学部 在学中に司法試験に合格
勤務弁護士を経て独立、法律事務所を経営する
約10年の弁護士キャリアの後にライターに転身
現在は法律ジャンルを中心に、さまざまなメディアやサイトで積極的に執筆業を行っている

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