会社が訴えられて「被告」になったら ~プロローグ~
争いごとやトラブルに巻き込まれるのは「個人」だけではありません。会社(法人)も裁判の対象になります。 |
目次
1.そもそも民事訴訟とは?
1-1.民事訴訟(裁判)とは
民事訴訟(裁判)とは、民間人同士の法的トラブルを解決するための裁判です。たとえば以下のようなトラブルが民事裁判の対象となります。
- 貸したお金を返してくれない
- 未払いの売掛金を回収したい
- 不法占拠者を退去させたい
- 会社が給料を払ってくれない
- 突然解雇された
- 商標権、特許権を侵害された
民事裁判の場合、訴えた人を「原告」、訴えられた人を「被告」と言います。個人だけではなく株式会社や有限会社、合同会社が社団法人、財団法人、NPO法人などの「法人」も裁判の当事者になります。
また民事裁判では原告と被告のどちらが正しいわけでもなく、立場は対等です。原告が間違っていたり不当請求であったりすると、原告の請求は棄却されます。
1-2.刑事裁判との違い
一般に「訴えられる」という場合、刑事裁判を意味するケースも多々あります。実際に会社が刑事裁判の「被告人」となる可能性もあります。
刑事裁判は犯罪を犯した疑いのある人を「検察官」が訴えて必要な処罰を与えるための裁判です。お金を回収したり土地を明け渡させたりする民間人同士のトラブル解決ではありません。検察官が一方的に被告人を追及するので被告人は責められるだけの立場です。
会社そのものが被告人となる場合だけではなく、代表者や従業員が違法行為をしたときに、会社にも合わせて刑罰が科されることがあります。これを「両罰規程」と言います。
法人に与えられる刑罰は、高額な罰金刑となるケースが多数です。
2.会社が民事裁判で訴えられたときの流れ
会社が民事裁判で訴えられたらどのような流れで手続きが進んでいくのか、みてみましょう。
(1)訴状と証拠が届く
まずは裁判所から「訴状」と証拠書類の写しが届きます。事前に連絡はなく突然「特別送達」という郵便で文書が送られてきます。
裁判所からの文書を受けとったらすぐに中身を確かめましょう。
(2)弁護士に相談、依頼する
訴状が届いたとき、法人が自分達だけで対応するのは困難で不利になる危険性も高くなります。すぐに弁護士に相談に行ってアドバイスをもらいましょう。多くのケースではそのまま依頼して裁判に対応してもらうべきです。
(3)答弁書を提出する
訴状と同封されている書類に「答弁書催告状及び口頭弁論期日呼出状」があります。答弁書とは、訴状に対する反論書面です。
民事裁判では、きちんと反論をしないと相手の言い分を認めたことになってしまいます。
訴状を受けとったらきっちり答弁書を作成し、第一回期日までに裁判所に提出しましょう。弁護士に依頼していれば弁護士が対応してくれます。
(4)第1回期日が開かれる
指定された日時に第1回期日が開かれます。ただし事前に答弁書を出していれば、1回目の期日には被告は出席しなくてかまいません。
(5)争点整理手続き
第2回期日以降は、原告と被告の言い分の食い違いを明らかにする「争点整理」の手続きを続けます。主張内容を補充するために追加の証拠もどんどん提出します。
(6)尋問
会社の代表者、従業員や原告本人など、関係者の尋問が行われます。
(7)結審
最終的な意見を述べ合う最終弁論が行われ、裁判は結審します。
(8)判決
結審後1~2か月ほどで、裁判官から判決が言い渡されます。弁護士に依頼している場合には弁護士が判決書を取得して連絡をくれます。
不服があれば、控訴を検討します。
3.会社が訴えられたとき、対象は会社か代表者か
「会社が訴えられる」とはいったいどういうことなのかイメージしづらいかもしれません。代表者が訴えられるのか、それとも「会社」そのものが訴えられることがあるのでしょうか?
会社は法律上「法人」として1つの人格を認められているので、独立して裁判の対象になります。そこで「会社が訴えられた」という場合、法人そのものが訴えられていることを意味します。
ただし代表者個人も裁判の被告になりますから、代表者宛の訴訟を「会社への訴訟」と表現しているケースもあります。
多いのは、会社と代表者の両方を共同被告としてセットで訴えているケースです。金銭請求などの場合、両方を訴えると会社と代表者の両方の資産から取り立てができるので原告にとっても都合が良くなります。
他の役員や場合によっては従業員も巻き込まれて一緒に被告にされるケースもあります。
4.会社が訴えられたとき、誰が対応すれば良い?
法人としての「会社」が訴えられたとき、誰が対応すれば良いのかが問題です。
基本的には代表者が対応することになります。代表者個人が訴えられていなくても、代表者は会社の重要事項について代表してとり行う必要があるからです。
ただ会社の裁判で、代表者が個人的に奔走すれば済むものではありません。
特に会社全体の責任が問われるようなケースでは、他の役員や関係する部門の責任者なども巻き込んだ対応が必要です。
必ずしも社内の人間全員で対応せねばならないものではありませんが、代表者だけではなく他の役員や従業員も一丸となって訴訟対応が必要となるケースは多々あります。
ただし末端の従業員にまで訴訟について知らせると、いたずらに不安を煽って労働意欲を低下させたり離脱(退職)を招いたりするおそれもあるので「どこまで広げるか」については慎重な判断が必要です。
会社の中で誰が主体的に訴訟に関わるべきかは、訴えの内容や会社の状況によっても異なります。自分達では最善の対処方法を策定しにくいので、企業法務に長けた弁護士に相談をして進めていくのが良いでしょう。