事業承継、ソコが聞きたい! 第22回 社内組織の改革
多くの企業の事業承継では、経営者の交代に伴って組織やルールを変える必要が出てきます。また、事業承継は、社内組織の改革を推し進める絶好の機会になります。 |
目次
組織改革の必要性
政府は中小企業の動向をまとめた中小企業白書を毎年発行しています。
2017年の白書では、7章のうちの1章分で事業承継の詳しい分析をしています。その中では、事業承継の問題について、中規模法人と小規模法人・個人事業者についてそれぞれ触れています。
なお、中規模法人とは、中小企業のうち小規模法人と個人事業主を除く法人です。
小規模法人とは、常時雇用の従業者数が卸売業や小売業、宿泊業と娯楽業を除くサービス業で5人以下、製造業などでは20人以下の法人です。
中規模法人の課題
中小企業白書によると、中規模法人では、特に次の2点が事業承継時に抱える問題の上位になっています。
- 中規模法人の問題1 「社内に右腕となる人材が不在である」
- 中規模法人の問題2 「引き継ぎまでの準備期間の不足」
中規模法人では、まず、経営者の「右腕」となる人材がいないこと、次に準備期間の不足が挙げられます。
小規模法人・個人事業者の課題
小規模法人と個人事業者を見ると、経営全般に関しては次の問題が上位になっています。
- 小規模法人と個人事業者の問題1「引き継ぎまでの準備期間の不足」
- 小規模法人と個人事業者の問題2「取引先との関係維持」
- 小規模法人と個人事業者の問題3「技術・ノウハウ等の引き継ぎ」
さらに小規模法人では、経営者の右腕となる人材の不在が問題の上位にあります。
これらの調査結果を踏まえて、「後継者の代を視野に入れた組織づくりや経営者を補佐する人材の確保・育成を心掛けることが重要である」と中小企業白書では指摘しています。
そこで、ここからは、組織づくりと経営者を補佐する人(以下、「右腕」といいます)の確保について解説します。
組織づくりの課題
中小企業、とりわけオーナー色の強い企業では、社長の考え方や態度、言動がそのまま企業経営に影響することがよくあります。いわゆるワンマン経営です。
公私混同とまでは言えませんが、実際に個人保証を行う社長も多いので、社長の言うことがすべて、という企業も少なくないようです。
その一方で、ワンマン経営だからこそ、創業から苦しい時でも会社を引っ張り、意思決定も迅速、悪い時でも責任を取ってきた、と言えるのも事実です。
このような創業社長や長期間在任した社長の後で、後継者が同じようなやり方で経営することはできません。
むしろ、「従業員が新社長の言うことを聞かない」「コミュニケーションがうまくいかない」「取引先と腹を割った話ができない」などと、さまざまなことが起こりえます。
したがって、事業承継の前、つまり事業承継の計画段階では、次の経営のための組織づくりが必要といえます。
では組織づくりとは何をすることでしょうか。
簡単に言えば「企業という組織を最大限に機能させるために必要なこと」を整備すること、です。
会社組織を機能させるためにやるべきこととして、以下が挙げられます。
経営理念の確認
「経営理念」とは、創業者や経営者による企業経営の基本的な考え方です。
事業承継にあたり、この経営理念を活かしてどのように次世代の経営をかじ取りするかを考えることが重要です。
将来、経営の岐路に立ったり、困難が生じたりした場合、「この会社は何をする会社なのか」と、社員と一緒に原点を見つめ直す機会があるかもしれません。
このような時に経営理念があれば、会社の目指すべき方向を経営と社員が共有できます。
もし、経営理念がない場合は、事業承継時に創業者などの考え方などを参考に新たに策定したり、次世代の経営にそぐわなければ修正したりする必要もあります。
ただし、経営理念は企業経営の基本的な方向性を示すものなので、あまりひんぱんに変更しないように留意します。
この経営理念の下で、会社が何に向かっていくのかを示すのが「経営戦略」です。そして、その経営戦略をどのように実行するのかを示すのが「経営計画」です。
このように、経営理念・経営戦略・経営計画は、上から下へと階層構造になっていますが、まずは経営理念の確認からはじめることが大切です。
コミュニケーションができる組織づくり
「社長の言うことが社員に伝わらない」「社員の意見が社長に伝わらない」ということがないでしょうか。
会社の業績は毎月数字でわかりますが、コミュニケーション不足による組織の閉塞感はなかなか気づかないものです。
なぜならば、長年の間で組織には知らず知らずのうちに企業文化が培われ、見えない空気が社員の言動を支配してしまうからです。
社内でのコミュニケーションが不足すると、どうなるでしょうか。
コミュニケーション不足の職場では、新商品の開発、新市場の開拓、競合に勝つための工夫などは生まれず、企業の成長に必要なイノベーションは期待できません。
「社長と社員が社内の地位を超えて意思疎通できる」
「ベテラン社員も昨日入社した若い社員も自由に意見交換できる」
「役割や所属の異なる社員同士がなんの支障もなく意思疎通できる」
このように自由なコミュニケーションができる強い組織が必要です。
事業承継を機会にコミュニケーションについて見直すことをお勧めします。
必要とされるリーダーシップ
リーダーシップとは、1人のリーダーだけが発揮するものではありません。
たとえば、サッカーの試合では、コーチは選手に直接細かな指示は出せません。キャプテンがいても一瞬のプレーに逐一指示を出すことは不可能です。11人の選手がポジションを流動的に変えながら、瞬間的に最適な判断をしながらプレーをします。
経営においてもサッカーと同様です。
強い組織のリーダーシップとは、社員それぞれが率先して現場の職務を行えるようにすることです。
ですから、後継社長はサッカー型のリーダーシップが望ましいといえるでしょう。
また、リーダーシップは決して社長や部長など組織長だけが発揮すればよいものではありません。
リーダーシップは個人の資質に依存せずに、教育や訓練によって社員一人一人が身につけ、磨くべきものです。
「見える化」を行う
これまでの創業者は「黙って俺についてこい」で、成功してきたかもしれません。
しかし、事業承継後の経営者の多くは、そのようなカリスマ性を持ち合わせていません。
では、どうしたらよいのでしょうか?
会社が良好なコミュニケーションを保ち、1人1人がリーダーシップを発揮して業務を遂行するためには、会社の経営状況について、できるだけ社員と共有することです。
そのためには、「見える化」が必要です。
では、何を「見える化」するのでしょうか?
見える化すべきものは、経営理念、経営戦略、経営計画をはじめ、人事制度、販売計画・実績、生産計画・実績など会社の仕事に関わるすべてと言ってよいでしょう。
(もちろん、個人情報や特別な重要事項などは除きます)
経営理念、経営戦略、経営計画がタテ糸とすれば、コミュニケーションやリーダーシップ、見える化はヨコ糸といえます。このタテ糸とヨコ糸がほころびなく織り合って、強い組織ができるのです。
- 事業承継をきっかけとした組織づくりの事例
Y金属株式会社は1970年創業の従業員50名の金属加工業者です。 Bが新社長になると、社内組織の未整備に気づきました。 社歴40年を超す組織を変えるのは並大抵ではありません。 事業承継時には苦しかった経営状況も、徐々に受注が戻りはじめました。 |
社長の右腕を育てる
企業は人なり、と言います。企業の経営資源である「人」「モノ」「カネ」「情報」の4つのうちで、最も重要なものは「人」です。
とりわけ新社長にとっては、自分を補佐してくれる「右腕」の存在は重要です。
社長は全知全能ではありません。社内のすべてをわかっているわけではなく、いつも正しい経営判断ができるとはかぎりません。社長が重要な判断を誤った時や、ブレーキが利かない状態で暴走を放置すれば、会社は大変な経営危機を迎えるかもしれません。
会社にとっても、そのような時に直言をしてくれる右腕が必要です。
右腕の存在が歴史を変えた例は枚挙にいとまがありません。
たとえば、日露戦争での日本海海戦で、連合艦隊司令長官の東郷平八郎を補佐した参謀秋山真之。戦国時代、豊臣秀吉に仕えた黒田官兵衛など。企業経営者ではホンダの創業社長本田宗一郎を補佐した藤沢武夫などがいます。
ホンダは世界的な大企業に成長しましたが、本田宗一郎と藤沢武夫が出会ったのはまだ町工場の時代でした。
本田宗一郎は技術の天才でしたが、代金回収に困るなどカネについては不得手でした。そこで、そのカネを管理し、会社経営を仕切ったのが藤沢でした。
藤沢が会社の経営を受け持つことにより、社長の本田は技術に専念できた、これがホンダを世界的な自動車メーカーに成長させたと言えるでしょう。
右腕にふさわしい人物像は、社長の得手不得手や性格、企業の状況などによりさまざまです。
もし社長が「どっしりと動かない」タイプであれば、右腕となる人は「フットワークが良く、社内をこまめに歩く」タイプのように、互いに補完し合えることが理想的です。
社長が誤った判断をしそうな時に直言してくれ、ブレーキをかけてくれるような右腕がいるかいないかは大きな違いです。
事業承継の計画では、次の社長を決める時に、次期社長の右腕も決めて育てることも大切です。
プロフィール
一般社団法人 多摩経営工房(多摩ラボ)
中小企業診断士、社会保険労務士、税理士、ITコーディネータ等の資格を持つプロのコンサルタント集団で構成されている。
さまざまな分野や業種での実務経験が豊富な専門家が、日本経済を支える中小企業の役に立ちたいという強い意思と情熱を持ち、また日本の中小企業が持つ優れた技術やサービスを広く海外に展開し、国際社会にも寄与すべく以下の活動を行っている。
- 多摩地域の企業の経営課題解決のため、地元密着でサポート
- 企業と行政・金融機関などを繋ぐパイプ役として、また専門的知識を活用した中小企業施策の活用支援など、幅広い活動を通して企業発展を支援
多摩経営工房(多摩ラボ)ホームページ
http://tama-labo.jp/
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