契約書、ソコが聞きたい!第5回 弁護士と契約書について
契約書を作成するとき、弁護士に相談するメリットはどのようなところにあるのでしょうか? 今回は「弁護士と契約書の関係」、なぜ弁護士に契約書のレビューや作成を依頼すべきなのか、解説します。 |
目次
1.テンプレートを使う危険性
契約書を作成するとき「わざわざ専門家に依頼する必要はない」「自社でもテンプレートなどを使って対応できる」と考える方が今でもたくさんおられます。
しかしこういった考え方は大変危険です。
テンプレートや書式は、ケースごとの特徴や配慮すべき点を一切考慮していないからです。
たとえば取引を行うとき、何を対象にするのか、いつまでの有効期間にするのか、期間が切れた後も義務を持続させるのか、できれば途中解約を制限したいなど、いろいろと個別的な事情があるものです。業務委託するときにも、委任契約にするのか請負契約にするのかなど選択の余地があります。
テンプレートを使うとこうした当初の段階からつまづいてしまい、不適切な選択をしたり不十分な内容になったりする可能性が高くなります。すると問題が起こったときにトラブルを防止する効果がなく、せっかく契約書を作成した意味が無くなってしまいます。
また自社でテンプレートをもとに適当に書き換えたり書き足したりするのもお勧めではありません。素人の方が契約書の文言を変えても、どうしても不十分になったり表現が不正確になったりして、いざトラブルが発生したときの解決効果を期待しにくいからです。
以上のようなことから契約書を作成するときにはテンプレートや書式ではなく、きちんと専門家に依頼すべきです。
2.司法書士や行政書士との違い
契約書関係を相談できる専門家としては司法書士や行政書士も存在しますが、これらと弁護士とではどこが異なるのでしょうか?
司法書士や行政書士と弁護士の一番の違いは、弁護士には「代理権」があることです。弁護士の場合、トラブルになったときに代理で交渉や調停、訴訟などを進められるので、解決能力が高くなっています。またふだんの業務で頻繁にトラブル解決にあたっているのでトラブルを予測する能力も高く、予防策を契約書に反映させるのが得意です。
また弁護士は他士業よりも深く法律を学んでおり、知識が豊富です。司法書士や行政書士は弁護士に比べると法律についての知識や理解が表面的なため、法律文書である契約書を作成するときにも弁護士に依頼した方が、安心感が強くなります。
あまり契約関係に詳しくない司法書士や行政書士に相談しても、よくわからないまま適当に契約書を作成されてしまうかもしれません。自社でテンプレートを使うのとたいして違わない結果になるリスクも発生します。
3.弁護士に契約書を依頼するメリット
契約書の作成を弁護士に依頼すると、以下のようなメリットがあります。
3-1.紛争予防効果の高い契約書を作成できる
契約書を作成するときには「紛争予防効果」の高いものを作成することが必須です。弁護士に依頼すると将来のトラブルの可能性を見越して、問題が発生しにくいよう内容面で配慮してもらえます。
3-2.自社の要望を入れることができる
契約時には契約当事者の「要望」があるものです。たとえば損害賠償を制限したいとか、契約期間を短くしたい、途中解約をしないでほしい、絶対に営業秘密を漏らさないでほしいなどが考えられます。弁護士に依頼すると、こうした自社の要望をしっかり契約書に盛り込んでもらえます。
3-3.相手との交渉を依頼できる
契約書を作成する際には、相手との締結前の交渉が必要です。自社で交渉するとうまくいかない場合や相手に押しきられそうな場合でも、関係を悪化させずに上手に契約交渉をまとめるために弁護士が代理で対応してくれます。
3-4.実際にトラブルになったときにも解決を依頼できる
契約書を作成しても、後にトラブルが発生する可能性はあります。弁護士に契約書作成を依頼していたらそういった場面でもスピーディかつ適切に対応してくれるので、トラブルの拡大や不利な状況を避けやすくなります。
4.契約書のレビューと作成の違い
弁護士に契約書業務を依頼するとき「レビュー」と「作成」の2種類の依頼方法があります。
レビューとは、一応できている契約書の内容に問題や訂正すべき点がないかなどチェックしてもらうことです。作成は、契約書を1から作ってもらうことです。作成を依頼すると費用は高額になり、レビューの方が安くなります。
自社である程度の草案を作れるのであればレビューの方が安く済みますし、契約相手から草案が送られてきているなら、それを弁護士にみてもらうのも良いでしょう。
自社でも契約相手にも契約書作成能力がまったくない場合や、どのような契約書にしたら良いのか皆目見当がつかないケースでは、始めから弁護士に作成を依頼しましょう。
5.契約書関係の業務が得意な弁護士について
契約書の作成やレビューを依頼するならば「契約関係」に強い弁護士に相談・依頼することをお勧めします。弁護士の中でも、企業法務、契約関係の法務に長けている人とそうでない人がいます。またどういった分野の契約かによっても依頼すべき弁護士が異なります。たとえばIT関係ならIT関係法務に強い人、著作権やその他の知的財産権ならそれらの法務に強い人、M&AならM&Aに専門的に対応している弁護士に相談するのが安心です。ネット上の規約文書ならそういったものを普段から作り慣れている人に依頼しましょう。
自社がこれから締結しようとしている契約書がどういったものかを考えて、それに近い法務を得意としている弁護士を、ホームページなどで探すと良いでしょう。
まとめ
契約書を作成するなら一度は弁護士に相談すべきです。最終的に依頼しないとしても、将来の余計なトラブル防止のため、状況を話して確認してもらっておくと安心です。
これから締結しようとしている契約書に対応している弁護士を探して問合せをしてみてください。
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解説者プロフィール
元弁護士 ライター 福谷陽子
京都大学法学部 在学中に司法試験に合格
勤務弁護士を経て独立、法律事務所を経営する
約10年の弁護士キャリアの後にライターに転身
現在は法律ジャンルを中心に、さまざまなメディアやサイトで積極的に執筆業を行っている