知的財産、ソコが聞きたい! 第9回「知的財産のいま」
商標や特許などの知的財産がどういったものであるかを紹介してきました。 |
目次
赤ちゃんパンダの名前候補が公表されない理由
平成29年6月12日に、上野動物園でジャイアントパンダのメスの赤ちゃんが生まれました。そして、生後1ヶ月が過ぎた7月28日には赤ちゃんパンダの名前が公募され、8月10日に終了しました。この間の応募総数は32万2581点にのぼります。
日本パンダ保護協会名誉会長の黒柳徹子さんら6人が委員を務める選考委員会が選考を実施しました。まず、応募件数の上位100点から特定の商品名や人名を除く作業が行われ、もちろん他の登録商標と干渉するかどうかなどの調査なども行われました。
次にこれらの中から、名前の候補は8点まで絞られました。ですが、本稿の執筆時点でこれらの候補の具体的な名前は公表されていません。その理由は、「名前が出てしまうと、先に商標登録される恐れがある」からです。赤ちゃんパンダの名前は、パンダの所有権を持つ中国との協議などを経て都が決め、生後100日を迎える9月下旬をめどに発表されます。そのときには、すでに赤ちゃんパンダの名前は商標登録されていることでしょう。
赤ちゃんパンダの父親リーリーと母親シンシンの名前も、もちろん商標登録されています。商標権者は、「公益財団法人東京動物園協会」となっています。
- 「リーリー」(力力) – 商標登録第5436983号
https://www.j-platpat.inpit.go.jp/web/TR/JPT_5436983/3E14CA60C074D914726EE387F1C5F436
- 「シンシン」(真真) – 商標登録第5436984号
https://www.j-platpat.inpit.go.jp/web/TR/JPT_5436984/3E14CA60C074D91468BF889E1454968D
企業の隆盛・衰退と、技術や権利との関係
今度は、古い時代の話をしましょう。
1920~30年代のアメリカで、現代でも利用されているFM(周波数変調)を発明したエドウィン・アームストロングの特許のライセンス供与に関連して長期間の法廷闘争がありました。ラジオ機器や真空管などの大手RCAが、アームストロングの特許の採用に関連して他の企業と特許紛争を起こし、FMに関する権利を手にしました。
またRCAは、FMに有利な周波数をFMラジオ局に割り当てないように政府に働きかけて、ラジオ局の機材や家庭用ラジオの市場でもRCAの寡占が続きました。
RCAは1939年にテレビの実験を公開し、1954年にはカラーテレビを発表しました。世界初のカラーテレビの市販化を手掛けたのもRCA社です。
多数の特許や技術を持ったRCAでしたが、デビット・サーノフの息子が後継者として会社を継いだ後、状況が変化します。1980年代には多額の開発費用を費やしてCEDというビデオディスクを開発しましたが、商業的な大失敗によりRCAは急速に衰退し、1986年にはついにGEへ吸収されてしまいました。
かつては特許料だけで従業員の給料がまかなえるとも言われていたRCAは屋台骨を失ってしまったのです。
話を現代に戻しましょう。
2017年9月15日、東芝の半導体メモリの子会社「東芝メモリ」の売却を巡り、米投資ファンドのベインキャピタルは、日米韓連合の陣容としてIT4社(アップル、デル、シーゲート、キングストン)が東芝への資金提供を表明しました。
これに対し、東芝の協業先である米ウエスタンデジタルは日米韓連合への売却に強く反発しています。
週刊ダイヤモンドによると、東芝の半導体事業をけん引してきたフラッシュメモリーを発明した舛岡富士雄・東北大学名誉教授は「東芝では当初、フラッシュメモリーの技術は全く評価されなかった」と語っています。社内で誰も可能性が分からず上手く商売に結びつけられなかったのが、このような顛末の一因だったかもしれません。
特許を持たない・手放す企業戦略も
前回のコラムでは、特許のデメリットについてお話をしました。
特許を取得するには、その発明を世間に公開しなければなりません。さらに登録から20年後には、誰もが使えるようになります。このため、社外秘のノウハウとして発明を守り抜く方が良い場合もあります。
たとえば身近なところでは、飲料水の「コカ・コーラ」があります。コカ・コーラ社はコカ・コーラのレシピを社外秘として、特許権を取得していません。つまり、レシピを特許権ではなく非公開にすることにより長年、自社のブランドを守っているのです。
次に国内の例をみましょう。
2015年1月、トヨタは燃料電池車(FCV)に関する特許約5680件を無償公開すると発表しました。自動車業界ではとても珍しいことですが、これには市場の拡大という狙いがあります。
トヨタは「次の100年は水素燃料の時代になる」と読んでいました。ガソリン車から脱却するには、「エネルギー会社などとの協調した取り組みが重要」と判断し、世界規模の技術開発を推し進めるために特許の公開に至ったのです。このように、戦略的に企業が特許を手放すことも、たびたびあります。
今後、さまざまな場面で商標や知的財産の話題が増えて続けていくと思いますが、知的財産へのみなさんの理解がさらに深まっていくことを願っています。
今回で一旦連載は終了しますが、最後までお読みいただき、ありがとうございました。
解説者プロフィール
平野泰弘(ひらの・やすひろ)さん
日本弁理士会所属:弁理士登録番号12757号
特定侵害訴訟代理業務付記弁理士。ファーイースト国際特許事務所代表。
大手総合メーカーの知的財産部門の社内弁理士を経てファーイースト国際特許事務所を開設。
特許庁の審査・審判、地裁、知財高裁、最高裁等の代理人受任の実績も豊富で、特許庁出願は5年間で連続1000件以上ある。テレビや新聞をはじめとしてメディア出演、掲載実績も多数。
著書に『社長、商標登録はお済みですか?』(ダイヤモンド社)
事務所ホームページ
https://riskzero.fareastpatent.com/
著書
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