【カスタマーハラスメントとは】カスハラ対策について解説
近年、カスタマーハラスメント(カスハラ)の被害が増加し、多くの企業が対応に苦慮しています。長時間に及ぶ謝罪要求、高圧的な態度、理不尽なクレームなど、従業員の精神的・身体的負担を引き起こすケースは少なくありません。そのため、企業はカスハラへの対応基準を明確に定め、従業員を守る体制を整えることが不可欠です。
この記事では、カスハラの定義や判断基準、企業が取るべき対策について詳しく解説します。
目次
カスタマーハラスメント(カスハラ)とは
カスタマーハラスメント(カスハラ)とは、顧客や取引先からのクレームのうち、理不尽な要求や悪質な言動を指します。正当な意見や改善の要望とは異なり、従業員に過度な負担を強いるため、適切に区別して対応することが重要です。
カスハラの構成要素
カスタマーハラスメント(カスハラ)の判断基準は企業ごとに異なりますが、一般的には以下の3つの視点で判断されます。
① 顧客によるクレームや言動であること
カスハラの加害者は、実際に商品やサービスを購入した顧客に限られません。
たとえば、店舗を訪れたものの購入には至らなかった人や、見積もりを依頼しただけの人であっても、理不尽な要求や過度なクレームを繰り返せばカスハラに該当する可能性があります。店内で対応を受けた人が、後日、特定の従業員を標的にして執拗に電話をかけ続けるようなケースも、カスハラとして問題視されることがあります。
② 不当な要求や行為であること
カスハラと判断されるかどうかは「要求の内容が正当であるか」、「その要求の伝え方が適切であるか」に大きく左右されます。
たとえば、購入した商品に明らかな欠陥があり、返品や交換を求めるのは正当な要求です。
しかし、商品に何の問題もないのに「初期不良だ」と主張して返品を強要したり、サービス内容と無関係な補償を求めたりする行為は、不当な要求とみなされる可能性があります。
また、過去に一度利用しただけの顧客が、長期間にわたって店舗や会社に対して執拗にクレームを続ける場合も、不当な要求に該当することがあります。
さらに、たとえ要求の内容が妥当だとしても、その伝え方が社会的に許容される範囲を超えていれば、カスハラと判断される余地があります。
たとえば、店舗側の対応に問題があった場合、顧客が「説明をしっかりしてほしい」と冷静に伝えるのであれば適切な要求ですが、「お前ら全員土下座しろ」と怒鳴るような行為は、いくら店側に非があってもカスハラとされる可能性が高くなります。
同様に、長時間にわたって電話で苦情を続け、業務に支障をきたすような行為や、店員に対して威圧的な態度で謝罪を強要するようなケースも、社会通念上許容される範囲を超えていると判断されるでしょう。
③当該行為により、就業環境が悪化すること
カスハラは、単に理不尽なクレームがあるだけではなく、それによって従業員の精神的・身体的な負担が増し、職場環境が悪化することが問題となります。
たとえば、顧客が従業員に対して執拗に怒鳴ったり、大声で威嚇するような発言をしたりすると、従業員は強い精神的ストレスを感じることになります。
また、理不尽な要求に対して何度も謝罪を求められたり、長時間拘束されることで通常の業務が妨げられたりする場合、職場環境の悪化につながります。
顧客の言動が従業員の就業環境に明らかに悪影響を及ぼしている場合は、企業として適切な対策を講じることが求められます。
一方で、顧客の要求が不当であった場合でも、企業側が適切に対応し、顧客がすぐに要求を取り下げた場合には、カスハラに該当しない可能性もあります。
カスハラの判断基準
カスタマーハラスメント(カスハラ)を判断する際には、「要求の内容が妥当かどうか」と「その手段や態度が適切かどうか」の2つの視点が重要です。
① 要求内容に妥当性があるか
顧客の要求が合理的かどうかを確認することが大切です。
たとえば、商品やサービスに明らかな不備があり、交換や返金を求める場合は正当なクレームに該当します。
しかし、企業に過失がないにもかかわらず、不当な補償を求めたり、過剰な対応を要求する場合は、カスハラと判断される可能性が高くなります。
②要求の手段や態度が適切か
クレームの伝え方や態度も、カスハラかどうかを判断する重要なポイントです。
たとえば、クレームが長時間に及び、業務の妨げになる場合や、従業員に対して暴言や威圧的な態度を取る場合は、社会的に許容される範囲を超えており、カスハラとみなされる可能性があります。
2022年2月厚生労働省が「カスタマーハラスメント対策企業マニュアル」を公開
カスタマーハラスメント(カスハラ)の深刻化を受け、厚生労働省は2022年2月に「カスタマーハラスメント対策企業マニュアル」を公表しました。このマニュアルは、企業がカスハラ対策を進める際の指針となるものです。
このマニュアルの目的は、企業にカスハラの危険性を認識してもらい、対策の必要性を理解してもらうことです。企業が自主的にカスハラ対策を実施できるよう、具体的な対応策を示しています。
また、マニュアルとあわせて、リーフレットやポスターも作成され、企業が職場でのカスハラ防止を周知しやすい環境が整えられました。これにより、企業側がカスハラを適切に防止し、従業員を守るための取り組みを強化することが期待されています。
続々と成立するカスハラ防止条例
カスタマーハラスメント(カスハラ)を防ぐため、各地で条例の制定が進んでいます。全国で最初にカスハラ防止条例を制定したのは東京都で、2024年10月に成立し、2025年4月から施行されます。この条例には罰則はありませんが、「企業だけでなく社会全体でカスハラ対策を進めるべき」だと明記されました。
全国に広がるカスハラ対策条例
東京都の条例制定をきっかけに、全国の自治体でもカスハラ対策の動きが活発になっています。2024年11月には北海道で「北海道カスタマーハラスメント防止条例」が成立しました。この条例では、顧客に対し「カスハラを行ってはならない」と明確に示し、消費者の意識向上も求めています。
さらに、栃木県、群馬県、埼玉県、佐賀県などでも、条例の制定に向けた準備が進められています。都道府県だけでなく、市町村単位で独自のカスハラ対策を進める自治体も増えてきました。
秋田県では、「多様性に満ちた社会づくり基本条例」において、優越的な立場を利用した不当な要求を禁止し、カスハラ行為を明確に制限する規定を設けています。この条例では、土下座の強要、長時間の謝罪要求、大声での威圧などが具体例として挙げられました。
職員へのハラスメント対策も進行中
カスハラ防止だけでなく、自治体職員へのハラスメントを防ぐための条例も増えています。東京都狛江市が2018年に制定した「職員のハラスメント防止条例」を皮切りに、大阪府池田市、埼玉県川越市、福岡県中間市など、全国80以上の自治体で同様の条例が導入されています。地方公務員を守るための取り組みも広がりを見せています。
条例制定が進む理由
カスハラ防止条例が広がっている背景には、企業や自治体が深刻な被害を受けている現状があります。従業員の働く環境を守るため、企業単位での対応には限界があるため、行政がルールを設ける必要性が高まっています。
また、カスハラ対策は企業努力だけでなく、社会全体で取り組むべき課題と認識されるようになってきました。そのため、自治体が指針を示し、企業が対応しやすい環境を整える動きが進んでいます。
政府もカスハラ対策を推進
地方自治体の動きを受け、政府もカスハラ対策に取り組み始めています。2025年の通常国会では、労働施策総合推進法(パワハラ防止法)の改正案が提出される予定です。企業にカスハラ対策を義務づける内容ですが、加害者への罰則は含まれていません。
一方で、自治体によっては、より厳しい対策を講じる動きもあります。たとえば、一部の自治体では、悪質な行為者の氏名公表を可能とする規定を設ける案が検討されています。ただし、これにはプライバシーや家族への影響といった課題もあり、慎重な議論が求められています。
カスタマーハラスメント(カスハラ)対策の一般例
カスハラへの対応は、「事前準備」「適切な対応」「再発防止」の3つのステップに分けて考えると効果的です。それぞれの具体的な対策を見ていきましょう。
事前の基準策定
カスハラを未然に防ぐためには、企業側があらかじめ対応基準を設け、従業員が適切に対処できる体制を整えることが不可欠です。
まず、カスハラの定義を明確にすることが重要です。正当なクレームとカスハラの違いを明文化し、「どのような行為が許容されないか」を社内で共有する必要があります。
また、カスハラが発生した際の社内対応マニュアルを作成し、従業員が適切に対応できるようにします。特に、初期対応の方法や、エスカレーションのフロー(管理職・本社・外部機関への報告手順)を明確にしておくことが重要です。
加えて、定期的な従業員研修の実施も欠かせません。カスハラ対応には一定のスキルが必要なため、ロールプレイング形式の研修を行うことで、実際の現場で落ち着いて対応できるようになります。
適切な対応:カスハラが発生したときの対処法
実際にカスハラが発生した場合は、適切な初期対応を行い、従業員を守ることが大切です。対応を誤ると、被害が拡大するだけでなく、他の顧客にも悪影響を及ぼす可能性があります。
① 冷静に事実確認をする
クレームを受けた際は、顧客の言い分を一通り聞き、問題の本質を見極めることが重要です。ただし、すぐに謝罪するのではなく、「どの点について不満があるのか」を正確に把握します。事実と異なる主張をしている場合は、丁寧に説明し、誤解を解くことが必要です。
② 一人で対応しない
カスハラを受けた従業員が一人で対応すると、精神的な負担が大きくなるだけでなく、対応ミスが発生するリスクも高まります。原則として、複数名で対応するようにし、場合によっては管理職が対応に入るなどの工夫が求められます。
③ 一定のラインを超えた場合は毅然と対応
正当なクレームであれば真摯に対応するべきですが、明らかに不当な要求や迷惑行為があった場合は毅然とした態度を取ることが重要です。たとえば、暴言や長時間の拘束が続く場合は、「これ以上の対応はできません」と明確に伝え、必要に応じて対応を打ち切ることも選択肢に入れます。
④ 違法行為には法的措置も視野に
カスハラがエスカレートし、脅迫や暴力行為に発展した場合は、警察や弁護士と連携し、法的手段を取ることを検討します。企業側が毅然と対応することで、他の従業員を守ると同時に、同様の事案の発生を防ぐことにもつながります。
再発防止:カスハラを減らすための仕組みづくり
カスハラの被害を最小限に抑えるためには、発生した事案を分析し、再発防止策を講じることが重要です。
① 相談窓口を設置
カスハラを受けた従業員が気軽に相談できる専用窓口を設置し、被害を適切に報告できる体制を整えます。報告がしやすい環境を作ることで、問題の早期発見につながり、従業員の精神的負担を軽減できます。
② 事例の共有と社内研修
発生したカスハラ事例を社内で共有し、どのように対応すればよかったかを振り返ることで、次回の対応力を向上させます。また、新入社員やクレーム対応担当者に向けた研修を定期的に実施し、組織全体での意識向上を図ります。
③ 外部機関との連携
企業だけで対応が難しい場合は、外部の専門機関(弁護士、警察、労働局など)と連携し、適切な対処法を学ぶことも有効です。特に悪質なカスハラ事案については、専門家のアドバイスを受けながら対策を講じることが望ましいでしょう。
カスタマーハラスメントは、従業員の健康や企業の運営に悪影響を及ぼす深刻な問題です。そのため、企業は事前に対応方針を定め、従業員が適切に対応できる環境を整えることが求められます。
具体的な対策としては、「カスハラの基準を明確にする」「従業員の対応スキルを向上させる」「社内の相談窓口や外部機関と連携する」ことが挙げられます。また、カスハラが発生した際には、事実確認を徹底し、対応基準に沿った適切な対応を行うことが重要です。
まとめ
カスタマーハラスメントは、顧客の正当なクレームとは異なり、企業や従業員に過度な負担を強いる行為です。企業は適切な対応基準を設け、従業員を守るための体制を整えることが重要です。違法行為が疑われる場合は、法的手段を活用し、毅然とした対応を取ることが求められます。
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