【社会保険労務士 長沢有紀様インタビュー】社長と同じ目線にこだわり続ける顧問
社会保険労務士 長沢有紀様 インタビュー 聞き手:みんなの顧問編集部・茂田
中小零細企業の味方であり続ける
中小零細企業の経営は、きれい事ばかりですまされない。経営者の多くは常に孤独であり、ときには役所に聞きにくい事情も抱えている。
「社長と同じ目線に立ち、親身にアドバイスをさせていただくことで、経営者や会社にとって頼もしい存在であり続けたいと思います」と、特定社会保険労務士の長沢有紀さんは語る。
長沢有紀 Yuki Nagasawa
特定社会保険労務士
アドバンス社会保険労務士法人代表
プロフィール
1969年東京都生まれ。共立女子短期大学家政科卒。三井信託銀行(現三井住友信託銀行)に在職中、社会保険労務士などの資格を取得した。名門社労士事務所に1年以上勤務し、1994年に長沢社会保険労務士事務所を開設。開業当時、最年少開業社労士として注目される。2011年、「アドバンス社会保険労務士法人」を設立。複数の経験豊かな特定社会保険労務士が労使トラブルなどに対応している。
「女性社労士 年収2000万円をめざす」(同文舘出版)、「社労士で稼ぎたいなら『顧客のこころ」をつかみなさい』」(同文舘出版)など、著書多数。セミナー講演、テレビ出演などでも活躍している。
労働環境や企業環境の変化によって需要が増加
昔は、「会社に税理士は絶対に必要だが、社労士はいらない」と言われていた。
社労士の基本業務が社会保険・労働保険に関連する手続きで当時はそれほど専門性を必要としない事務的な仕事と思われていたためである。
しかしここ10数年で、状況は大きく変わった。
給与から控除される健康保険、厚生年金、介護保険、雇用保険を始めとする各種保険料や労働関連の法律は改訂が多く、仕組みも複雑で、社労士の需要が高まった。また、従業員の権利がはっきりと主張される時代となり、労働基準法や関連諸法に絡んだ会社とのもめ事が急増した。
未払い残業代の請求、育児休暇、従業員のうつ病などの精神疾患、企業側が従来想定していなかった社員の行動など、企業が対応すべき新たな課題の多くが社労士の仕事である。
社労士が多くの企業から必要とされる存在に変わると、今度はより高度なスキルが求められるようになる。また一方で、「社労士は個人事務所ではなく、法人にお願いしたい」という企業も増えてきた。こうした需要に応えるため、長沢さんはアドバンス社会保険労務士法人を2011年に設立。現在、100社以上の企業の顧問をしている。
「近年、多くの会社が労使トラブルに巻き込まれています。そのようなときにこそ、経験と解決力のある、頼れる労務士が必要となります。私の事務所では、会社の傷を広げず、最善の解決方法を探し出しだすのを信条としています」
零細企業でも就業規則は重要!
社労士の大切な仕事のひとつが、調査の立ち会いと指導だ。調査には、労働基準監督署による調査、公共職業安定所や年金事務所による調査、会計検査院による調査がある。
役所の調査は、昔よりもずっと厳しくなった。そのため、社労士の対応の良し悪しによって、結果にも大きく差が出てくるという。
「調査が入っても危機感のない経営者は多いです。しかし、それは正しいことではありません」
就業規則の作成や変更などの依頼も増え続けている。
就業規則は組織のルールブックであり、会社を守る重要なファクターだ。必要な労働条件や服務規律が明確に、しっかりと記載されていなければならない。
「従業員との間でトラブルが起きたときに、就業規則がないと、会社は難しい立場に立たされることもある」と、長沢さん。
「うちは小さな会社なので、必要ない」「円満にやっているから、大丈夫」というのは間違いであり、従業員が10人以下なら就業規則の作成義務は生じないというのは、あくまで法律上の話でしかないのだ。
従業員が無断欠勤や遅刻を続けても、就業規則や対応する規程などがなければ、会社は減給や解雇の懲戒処分を行使できない。また従業員が労働基準監督署に申し出たり、訴訟されたりした場合、会社が窮地に立つこともあるのだ。
社労士は女性が活躍しやすい職業?
社会保険労務士資格の合格者を見ると、女性の比率が30パーセントを越えている。
税理士、司法試験、司法書士、行政書士などの女性比率が20パーセント台であることを考慮すると、社労士は女性に人気のある職業であるといえる。
長沢さんの事務所には、現在7人のスタッフが従事している。そのうち、6人が女性。女性はていねいで細かい仕事をすると、長沢さんは評価する。
その一方で、「社労士は気軽にできる仕事ではない。私たちの顧客は、社員の生活を背負っている。頼りないところを見せたり、家庭を理由に仕事の手を抜いたりすることは絶対に許されない」と、自らを律している。
今は社労士事務所にとって人材採用が難しい時代なのも事実である。税理士事務所などに比べてしまうと、社労士事務所は人手を必要とする細かな作業が膨大にある訳ではない。そのため、小規模な社労士事務所が大半を占めている。
さまざまな意味で、個人事務所を立ち上げても、単にフットワークさえよければ何とか食べられる時代ではなくなってきているのだ。
経営者への理解が大切
ただし社労士は、熱意を持ち続ければ必ず報われる仕事でもある。
社労士が女性に向いている職業であるかどうかはともかく、「女性であることで、社長の警戒心を解いていると感じることはある」と、長沢さんは語る。
「社労士にとって顧客の心をつかむのは、大切なことです。心を開いてもらい、本音を読み取る。その上で、女性の柔らかい言葉が、役に立っているかもしれませんね」
社労士は、司法書士や行政書士といった士業と異なり、スポット契約ではなく、顧問契約によって毎月一定額の顧問料を受け取る。長沢さんは社労士になってから20数年間、顧問契約の解除は周りと比べて少ないほうだと言う。
労使トラブルでは、会社側に厳しい結果が出るのが普通だ。顧客の期待に応えられないことも多い。「それでも社長の苦労、経営者の感覚を理解すれば、気持ちは通じる」というのが、長沢さんの信念だ。
社労士に必要なことはいくつかあるが、大切なのは、常に誠実であることと、知識や解決策を勉強し続けて、プロとしての実力を持ち続けることである。
経営者の味方だからこその厳しい言葉も
「私は、中小零細の社長に育てていただき、ここまで来たと思います。社長の気持ちがわかるようになるまで、長い時間がかかりましたが、今、ようやくその恩返しをできるようになりました」
ほかの社労士に冷たくされたお客様が、長沢さんの事務所を頼ってやってくる。長沢さんは万能ではない。法律に反することには決して手を貸さないし、駄目なものは駄目だとはっきり告げる。しかし、最後までお客様の味方であり続ける。
長沢さんは様々なトラブルに疲弊するお客様の気持ちを第一に考え、言葉を慎重に選ぶ。そして、このお客様が本当はいったい何を望んでいるのか、心の声をよく聞く。
「会社のために最善を尽くす方向に向かわせなければならない」。
このことは、事務所に所属するスタッフ全員に徹底させていると言う。
社労士としてスタートした当初、長沢さんは、経営者と従業員、立場の違う両者にとってより良い道を模索したこともあった。
しかしそれは自分の仕事ではないと、すぐに気がついた。経営者も従業員も「会社」の中にいるのだと、その会社全体にとって良い道にならなければ誰のためにもならない。
「誰から報酬をいただいているのかを自覚しなければなりません。私は、私を頼ってくれている社長や会社には、損をしてほしくありません」と、長沢さんは願っている。だから、時には厳しいことも言わなければならない。
会社のトラブルを解決した後、長沢さんが必ず経営者に伝えることがある。
「今回のことを、繰り返してはなりませんよ。そうでないと、決して良い会社にはなれません」
これからの活動について伺うと「今以上に頼りになる社労士でありたい」と、長沢さん。
長沢さんの事務所には労使トラブルに強い特定社労士が在籍しているが、長沢さんはもっとこの方面で力を付けたいと考えている。
「経験をもっと積みたい。そのために常に勉強しています。社労士という仕事は、本当に奥が深い。これほど情熱を傾けられる、やりがいのある仕事はありません」
アドバンス社会保険労務士法人(https://www.roumushi.jp/)
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